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日夜浮かぶの翻訳雑感

魯迅の翻訳と訳者の雑感 大連、京都の随想など

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保留

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数日来、新聞に:
新任の政務整理委員会委員長の黄郛の専用列車が、 天津に着くや、17歳の青年、劉庚生が爆弾を投げ、 犯人はその場で逮捕、供述では、日本人の指示を受けた由。
それで翌日新しい駅の外に梟首し、衆に示した、と伝えている。
清朝が民国になって22年経たが、憲法草案の民族、民権の両篇は、 数日前にやっと原案が完成したばかりで、まだ発布されていない。
前月、杭州で、西湖の強盗犯が公衆の前で斬首され、 見物人は万を数え、市内の巷は空っぽになった。
このことから、「民権篇」第一項の「民族の地位を高め」 にはそぐわないが、 「民族篇」の第二項の「民族精神を発揚し」には合致するわけだ。
南北統一して早8年。天津にも小さな首を掛け、 全国一致を示そうというのだから、もともとそう騒ぐまでもないか。
その次は、中国には「唯婦女と小人は養い難し」というが、 但、事件が起こると、三老人(馬・章・沈の三人が国民政府の対日交渉で、 裏で妥協していることを:出版社)が大いに騒ぎ、二老(馬・章)が宣言し、 九四(才の馬老人)の題辞が書かれるが、 その他にたくさんの「愛国童子」、 「美人の従軍」などの美談があり、壮年男子の顔色を無くさせた。
我が民族は往々「子供のころは賢かったが、大人になるとどうも」だが、 老いるとぐっと元気になるようで、追悼文では、死ぬと更にすごい人になる。
だから、17才の青年が爆弾を投げたのは、 特に情理から外れた訳でもない。
ただ、私が保留したいのは「供述では、日本人の指示を受け」 の一節で、これが売国とされたのだ。
20年来、国難はやまず、大衆から売国奴とされた者は30人以上いるが、 彼らはその後、依然として逍遥自在にしている。
青年と児童は懸命に彼らの稚弱なこころと体力を使って、 竹筒や募金箱を携えて、風沙泥濘を奔走し、国の為に微力を尽くし、 なんとか良い国にしようとしている。
数はどれほどにのぼることか。
彼らは先見の明に欠け、血と汗で集めた金は、 大抵虎狼の餌食にされたが、 彼らの愛国心はひたむきであり、 売国なんということはこれまで一切無い。
なんと今回は例を破ったのだが、私は彼の罪名の暫時保留を望む。
もう一度事実関係を調査すべきで、 それには3年とか50年とかはかからぬ。
掛けられた首が腐るまでに明らかにせねばならぬ:
誰が売国奴か?
 我々の児童と青年の首に吹き付けられたイヌの血を洗い落とせ!
5月17日
本篇と次の3篇は(検閲により)掲載されなかった。 5月19日

訳者雑感:
出版社注では、黄郛は蒋介石の命で、部下の熊斌と関東軍の岡村との間で 14日後に、「塘沽協定」を締結させた由。この協定は後に「売国協定」と云われた。
黄郛を狙った青年が売国奴として天津の新駅の外でさらし首にされた。
革命後22年経ても、なおこんな「見せしめ」をし、またそれを万を越える大衆が、 巷からわざわざ見物に来る。このさらし首とそれを見に集る大衆の「ぽかーん」と 口をあけた姿は、魯迅の原体験であり、彼自身も何回も見たことだろう。
 仙台のスライド事件、小説「薬」の中の秋瑾の心臓をえぐり取ってくるシーン。
「阿Q」が車に乗せられ、市中引き回しの上、斬首されるシーン。
 ましてや17才の青年が売国奴に爆弾を投げたのに、売国奴とされる理不尽さ。
だが保留は許されなかった。
    2013/01/18記

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