忍者ブログ

日夜浮かぶの翻訳雑感

魯迅の翻訳と訳者の雑感 大連、京都の随想など

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

コメント

現在、新しいコメントを受け付けない設定になっています。

両地書29

両地書29
 広平兄:
 6月6日の手紙は拝受後、暫く返事できませんでしたが、今日又12日夕方付の物が届きました。何もしていないのですが、多忙で筆がとれません。偶々何とか週刊にいくつか書いて、お茶を濁すのみでこの数日特にひどい状態です。この原因は大概「無聊」のためで、無聊になるのは何より恐ろしいです。自らそうなってしまうので、対症薬が無いのです。酒を飲むのもいいですが、またとても良くないこともあります。夏休みになって時間ができたら、数日休んで何もせず、何も読まずにいたいが、できるかどうか。
 第一、小鬼は狂人にならぬこと、怒らないこと、人は発狂すると、自己を無くし何もなくなります――ロシアのソログーポは幸せと思ったようだが――他の人から見れば、一切がすべて完結したようです。だから能力の及ぶ限り、自分が発狂することを肯定しません。まだ発狂していませんが、私を精神病だと言う人もいるが、これはどうしようもありません。イライラして怒りやすいが、やはり「イラダチ」の程度をゆるめるのが一番で、さもないと自分が損をします。中国にはいつも陰険な連中が勝利を収めていますから。
 上海の事件も想定外でした。しかし今年の学生の運動は、前の数回より進歩したと思います。しかしこれらの示すものは、所謂「ただこの様なもの」に過ぎません。試みに:北京全体(?)の学生も、一人の章士釘(釗)さえ排除できず、女師大の大多数の学生も一楊蔭楡を排除できぬのに、況や英日をやです。だが学生の側からはこうするしかなく、唯一の希望は意外なところから飛来してくる「公理」を待つことです。現在「公理」も些かは飛来してきており、又英国は間違っているという英国人もでてきました。だから何はともあれ、西洋人(洋鬼子)は中国人より文明的で、貨物は排斥しても、あの品性は学ぶべき点が多いのです。こういう風に自国の間違いを大胆に指摘するのは、中国人にはとても少ない。(バーナード・ショー等の発言を指す)
 所謂「経済断交」は他に思いつくものがない中で、確かに最良の方法の一つだが、付帯条件として、辛抱強く、真面目に取り組むことが必要だ。こうすれば、中国の実業はこれをテコに促進できるという人がいるが、それは自らを欺き、人を欺くことだ。(数年前、日貨排斥の時、皆そういったが、結果は、ただ「不易糊」製造に成功したに過ぎぬ。麦わら帽子とマッチの発達した理由はこのためではない。その頃、この「不易糊」もできなかったので、排斥が起きて3-4人の学生が小さな団体を作って製造し始めた。私は小株主になったが、一瓶8銭で売ったが、コストは10銭で、品質も日本品にかなわなかった。その後、赤字を出し、けんかとなり潰れました。今製造しているのは大変良くなったが、私には無関係です)これで利を得たのは米仏の商人で、我々は英日へ払っていた金を米仏に払った訳で、結局は同じだった。英日は損をしたから、報復できたのだが、これは気分が良いというだけのことだった。
 だが私の見るところ、一つの悪い結果を防ぐために、沢山の犠牲を無駄に使い、ずるい人間を利する機会を与えた。この種のことは中国ではしょっちゅう起こる。但し学生としてはそんなことは気にせずに、良心に従ってやるしかないが、じっくりと粘り強くやるべきで、性急に猛烈にしてはならない。中国の青年には大変な「性急」病があり(小鬼もその一人だが)持久することが難しく、(始めた時は大変猛烈で、力を使いきってしまいやすい)またすぐ簡単に釘にぶつかってしまい、痛い目にあって、怒りだしてしまう。これは再三言ってきているが、私もこれまで実際にやってきたことだから、言うのです。
 前信で飲酒に反対しながら、今回どうして自ら「微酔」(?)したのかな?
大作中には美辞が多く、些か削ろうと思うが、それで第□号の「莾原」に載せましょう。
 □□の態度には最近特に懐疑している。どうも西瀅とよく連絡しているようだから、反楊の文章も数編載せてはいるが、止むを得ずだと思う。今日「京副」に「猛進」「現代」「語絲」を「兄弟週刊」としたのは、大いに「語絲」を増販して、以て「現代」を味方にしようとの意図が見える。また「京副」の上海事件特集は、他の文章は載せぬが、別の隠された事情がありそうだ(但しこれは私の邪推かもしれぬが)「晨報」にはこういうことは無い。
 何名かで事業をするとき、本当に「天下の為」というのは大変少ないということはよく知っている。但し、人は現状にはいつも不満で、反抗し、改善しようとの意思はある。ただ、この点については共通の目的の為の協力は可能だ。たとえ些か「利用」しようとの私心を持っていてもかまわない。他の人を利用し、他の人のために働くのは良いことで、これを耳障り良く言えば「互助」だ。しかし私はどうも「罪業深く」自分に「禍が及」ぶのではと、いつも「互い」という字のない、純粋な利用しか見たことは無い。利用された後は気力を使いきった自分だけが残る。時として彼はついには罵るようになり:罵らなければ、彼に対する大きな恩に感謝するよう要求される。私がいつも無聊なのは、このせいだ。だが私は一切を忘れることができ、ちょっと休んだら、新たに再起し、たとえその後の運命は過去より良くなるとは限らぬと知っていても。
 本来4枚で終わるはずが、不満が増えて5枚になった。もう夜も更けたのでここらで終わりとしましょう。
    迅 6月13夜
 しかし余白に空話を書いてうずめるとするか。司空蕙は前回告示を載せ、欧州へ行くと言ったが、今は行かないと言っている。近頃手紙を貰い「捏蚊」の名前で「莾原」に参加したいという。多分「雪紋」即ち司空蕙だろう。今回「民衆文芸」には「聶文」の名が出ているが、これも彼女と思う。ちいさな釘にぶつかるとすぐ欧州へ行くと言い、行かないとなると、またこ「琴心」式の古い手を使う。この少しばかりの空白もこれで埋めるとしよう。

訳者雑感:学校騒動から上海事変へこの年は魯迅たちにとっても大きな転換の年となった。英日商品を輸入ボイコットしても、不易糊さえ(これに魯迅も出資したというのも不思議な気がするが、学生に頼まれたのだろうが、採算割れして最後は口論となり閉鎖…というのは中国では今なおよくあることだが)自分たちで作れず、米仏から輸入という図式である。
 李克強首相がテレビで語っていたことを思い出させた。世界最多のボールペンを製造しているのだが、肝心の小さなペン先のボールは全量輸入に頼っている。これは何とかしなければならない、と。こんなものすら製造できないで、自動車のエンジンとか良い品質の物を製造できるわけがない。
    2016/10/02記
 
 


 

拍手[0回]

PR

コメント

お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

カレンダー

06 2024/07 08
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31

フリーエリア

最新CM

[09/21 佐々木淳]
[09/21 サンディ]
[09/20 佐々木淳]
[08/05 サンディ]
[07/21 岩田 茂雄]

最新TB

プロフィール

HN:
山善
性別:
非公開

バーコード

ブログ内検索

P R