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日夜浮かぶの翻訳雑感

魯迅の翻訳と訳者の雑感 大連、京都の随想など

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10.怖れる必要はない


   山西省五台山の廟の奉納劇(午前7時ごろ)

10.怖れる必要はない
 『 』内は、原文は傍点つき:
 『だがこれは必ずしも実行せずに、発言しただけでも、別のある人たちを怖れさせる。
 先ず大衆語を提唱した人はすなわち「文芸の政治宣伝員の宋陽の類(共産党でこれを担当していた瞿秋白の筆名)」の本意は造反にあるという。色つきの帽子を被らせるのは、極めて単純な反対方法だ。一面では又自己保全の為、中国の80%が文盲でも構わぬと言う。では口頭で宣伝するなら、中国の80%を聾者にしなければならなくなる。だがここでは今「文を談じる」範囲外だから、これ以上触れない。
 専ら文学の為に怖れている人は今2種類いると思う。1種は大衆がみんな読み書きできたら、全員が文学家になると怖れる人だ。これは天が落ちて来るのを怖れるお人よしだ』
上述したように、字を知らぬ大衆の中にもこれまで作家がいた。もう長いこと帰郷していないが、昔は農民達も余閑があり、夕涼みの時、人は故事を語った。語り手は大抵特定の人で、比較的見識があり、話しがうまく、分かりやすく聴かせるのが上手で、且つ面白い。これ即ち作家で、彼の作品を書けば作品となる。話しが無味で、冗長なおしゃべりなどは皆聞こうとせぬし、冷めた言葉で――嘲笑する。我々は何千年も文語でやって来て、この十年来白話でやってきたが、凡そ書ける人はどうして皆文学家だと言えようか?たとえ全てが文学家になったとしても、軍閥や土匪ではないから大衆に危害を及ぼさず、互いに作品を見せ合うだけのことだ。
 もう一つは文学の低落を心配すること。大衆は旧文学の素養などないし、士大夫の繊細さに比べれば、あきらかに所謂「低落」だろうが、旧文学の痼疾に染まっていないから、剛健で清新である。「子夜歌」のような無名氏の文学の流れは、旧文学に新たな力を与えるだろう。上述したが:現在も多くの民歌や故事を紹介している人がいる。更には戯劇もあり、「朝花夕拾」で紹介した「目連救母」の無常鬼の自伝は、いわば一人の鬼魂(亡者)に同情し、半日娑婆に帰してやったら、はからずも閻魔に懲らしめられ、それからというもの、決して手を緩めなかった――
  「たとえ鉄の壁でも銅のでも、
   天子さまの親戚でも、容赦せぬ!」
 なんと人情味のある、また一度間違ったらすぐ改め、法を遵守し、果断に行う。我々の文学者はこんなものを書けるだろうか?
 これは本当の農民と手工業労働者の作品で、彼らは、閑を見つけては演じている。
目連の巡行する一連の多くの故事を借り、「小尼姑下山」以外は、木刻版の「目連救母記」
とはまったく異なる。その中の「武松打虎」は甲乙の二人が一強一弱で演じる。まず甲が
武松になり、乙は虎で、甲に死ぬほど叩かれ、乙は彼を恨む。甲は言う:「お前は虎だから叩かないと、こちらが咬み殺されるじゃないか?」乙は交代してくれと頼むが、今度は逆に甲に咬まれて死にそうで恨みをいうと、甲は「お前は武松だ。咬み殺さないと、お前に叩き殺されるじゃないか?」という。ギリシャのイソップ、ロシアのソログーブの寓話と比べても遜色ないと思う。
 全国各地に行って集めたら、この種の作品は大変多いだろう。ただ無論欠点もある。これまで難しい字と難しい文章で封鎖され、現代の思潮と隔絶している点だ。従って、中国の文化を一緒に向上させようとしたら、大衆語文を提唱し、かつ書法も必ずラテン化しなければならない。

訳者雑感:
 中国の各地の神様を祀る社殿の前には、丁度日本の大きな神社の前の「能舞台」のような屋根を持った「舞台」があり、そこで「目連救母」のような一連の演劇が奉納される。
それは規模の大小を問わず、小さい村にはそれなりの舞台が常設され、本当の農民や手工業の労働者が、「余技」として仕事の合間に練習してきた「戯劇」を演じ、神に豊作のお礼をする。それを村中の人が交替で観に来る。従って彼らの演劇は朝早くから夜更けまで続く。私も山西省の御利益のある廟に朝7時にお参りしたら、その小さな廟の前に立派な舞台があり、それぞれが御利益のお礼参りに来た人達の為に、演じている。えんえんと。
 彼らは物語の筋はよく知っており、台本なしで、演じられる。文盲かと思う。角付の漫才が盲目や、「ごぜ」であった日本も同じだと思う。
 彼らは難しい字や文章は読めなかったが、耳で覚えたせりふは忘れることは無かった。
   2013/10/17記
 


 

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