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日夜浮かぶの翻訳雑感

魯迅の翻訳と訳者の雑感 大連、京都の随想など

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 おせっかい、その2 学問、灰色等について

2.
 昨日の午後、沙灘(北京大学のある所)から帰宅したら、大琦君の来訪を知って、大変うれしかった。彼は入院したと思っていたが、そうでないと分かったからだ。更にうれしいことに、彼が「現代評論増刊」を呉れたことで、表紙に描かれた細長い蝋燭を見ただけで、これは光明の象だと分かった。況や、中の有名な学者の著作、そしてまた陳源教授の「学問の為の工具」があったから。
 これは正論で、少なくとも「閑事」(お節介)に勝る。少なくとも私はそう思う。なぜなら私に多くのことを(考えさせて)呉れたから。
 今分かったのだが、南池子(紫禁城の隣)の「政治学会図書館」は去年「時局の関係で貸し出しが37倍」になったが、彼の「家翰笙」(同じ陳姓ゆえ、
家と付けてい、陳翰笙を指す:出版社注)は「平素、香を焚かぬ者も、臨時に仏脚を抱く」という十文字で、現今の学術界の大方の状況」を表現した。
 これは私の多くの誤解を解いた。先述せるように、今や留学生は大変増えたが、私は彼らの殆どは外国で部屋を借り、扉を閉めて牛肉を煮込んで食べているものと疑ってきた。それも東京で私が実際に見てきたから。牛の煮込みは中国でも食べられるのに、なぜ遠い外国まで出かけるのか?外国は牧畜が盛んだし、寄生虫も少ないだろうが、煮込んでしまえば、寄生虫が多かろうと構わないだろうに。だから帰国した学者が、最初の2年間は洋服を着、その後は皮袍(中国服)を着て、頭をそらして歩くのを見て、彼は何年も牛肉を煮込んだ男で、どんな事があろうとも、「仏脚」を抱くことを肯んじないだろうと思ってきた。今、そうではないと判った。少なくとも「欧米留学帰国組」は決してそうではない。
 しかし、中国の図書館の本は少なすぎる。北京の30余の大学では国立私立を問わず、我々私人の本の数に及ばぬ由。この「我々」の中には「溥儀さんの師、
荘士敦先生」はじめ、多分「狐桐先生」即ち章士釗も入る。ドイツのベルリン滞在中、陳源教授は彼の2つの部屋は「殆ど全床、全架、全面、すべて社会主義関係のドイツ語の本で埋め尽くされていた」のを、自らの目で見たという。今ではもっと増えているに違いない。実に私を羨望かつ敬服させるものである。
私の留学時、官費は月36元で衣食代と学費を払った後は一銭も残らなかった。数年しても本は壁の一面すら一杯にならなかった。その本も雑書で専門の本ではなく、「全て社会主義関係のドイツ語の本」の類ではなかった。
 だが残念ながら、民衆がこの「狐桐先生」の「寒家」を再度壊しにかかったとき、「彼ら夫妻の蔵書は全て散失したそうだ」その時はきっと何十台もの車で
積み出したことだろうが、見ていないのでわからないがきっと壮観だったろう。
 だから「暴民」を「正人君子」が深く憎むのは理由のあるわけだ。即ち今回、
狐桐先生夫妻の蔵書の「散失」は中国の損失で、30余の国私大学図書館を壊すより重大だ。これに比べれば、劉百昭司長の家蔵せる公金8千元が失せたのは、
小さなことだが、我々が残念に思うのは、章士釗、劉百昭の所に、かくも多くの儲蔵が偏在していて、これらの儲蔵がすべて偸まれたということだ。
 私が幼いころ、世故にたけた先輩が私を戒めて、先行き見込みの無い荷や仕事を引き受けて、自分で自分を苦しめるんじゃないぞ、と教えて呉れた。相手は自分で転んでも、お前を逆恨みし、それにはっきり理由も説明できぬし、弁償することもできない、と。これは今なお私に影響を与え続けており、正月に「火神廟」(瑠璃廠のお宮)の縁日をぶらつく時、玉器の並んだ店には、決して近づかないようにしている。たとえ小さなものでも、不注意にぶつかって壊したら、すぐさまとても大変なお宝に変じて、一生かけても償いきれず、罪の重さは博物館の物を壊す以上になってしまう。
 これを押し広げてゆくと、あの騒ぎもたいして大きくならなかったし、あの時のデモで、「門歯を無くした」(デモの翌日「社会日報」に周樹人(北大教授)
は歯に傷を受け、門歯2本を無くしたという事実と符合せぬ記事のこと:出版社注)の流言もでたが、私は家にいて幸い恙がなかった。しかしあの二部屋の
「社会主義関係のドイツ語の本」及びその他の「狐桐先生」宅の物が陸続と散出せる壮観は、このために「終生みることがかなわなくなって」しまった。
これも実に「一利あれば必ず弊害もあり」で二つとも全きを得る法は無い。
 今洋書を収蔵する富は、私人では荘士敦先生が一番で、公団は「政治学会図書館」を推進しようとしているが、残念ながら一つは外国人で、もう一つは米国公使Reinshの提唱に依るものだ。「北京国立図書館」を拡張するのは、これ以上な事は無いが、やはり米国の(義和団事変の)賠償金返還頼みの由で、
年経費は3万元に過ぎず、月額2千元のみ。もし米国の賠償金返還を使っと言えども大変なことだ。第一、館長は中国と西洋、世界に名の知れた学者でなくてはならない。となると梁啓超先生しかいないが、西洋の学問には余り通じていないから、北大教授の李四光先生を副館長に配し、中外兼通の補完性を保つ必要がある。しかし二人の給与は月1千元余。従ってその後もたいした本は買えない。これも「利あれば弊あり」だが、ここまで考えて来て、「狐桐先生」が独力で購入せる数部屋分の良書が散失の厄に遭ったのが誠に悔やまれる。
 要するに、ここ数年良好な「学問のための工具」が手に入らず、学者が研究するにも、自分で買って読むしかないが、お金がない。「狐桐先生」がこの点に鑑みて、文章を発表されたが、下野されたのは残念也。学者たちはこれ以外にいかなる方法があろうか。もちろん彼らは「閑話」をしゃべる他、何もすることが無いようだ」北京の30余の大学も彼ら「私人の蔵書の多さ」に及ばない。どうしてだろうか?
学問するのも容易なことじゃない。「一つの小さなテーマでも、百十種の本を参考にせねばならぬ」「狐桐先生」の蔵書でも足りない。
陳源教授は一例として「四書」を引いて言う。「漢宋明清の多くの儒家の注疏
理論を研究せねば、「四書」の真の意義は掌握できない。冊数のすくない「四書」
すらも、もし仔細に研究しだしたら、数百数千の参考書を見なければならぬ」
 このことから「学問の道は大海のごとく広大であることがわかる。引用されている「四書」は私も読んだことがあるが、漢代の人が「四書」の注疏理論に就いて云々は聞いたことが無い。陳源教授の推奨される「あの風雅を提唱する
封藩大臣張之洞先生が「束髪の小生」たちのために書いた「書目問答」で述べているごとく、「四書」は南宋以後にできた書の名である。
 私はこれまで彼の話を信じてきたが、今後「漢書芸文志」「隋書経籍志」の類を調べても、只「五経」「六経」「七経」「六芸」があるのみで、「四書」は無い。
況や漢代の人が作った注疏と理論をや。しかし私が参考にしたのは一般書に過ぎないので、北京大学の図書館にはあるのだろうが、寡聞にして知らないが、そうだとしても「抱こう」としても「仏脚」すらも無いのだ。これで思うのは、
あの「仏脚を抱けた」人や「仏脚を抱くことを」肯んじる人は、確かに真の福なる人で、本当の学者だということである。彼の「家翰笙」が憤慨して言うのは,多分「春秋」は賢者を責む、の意だろう。
     完
 
 もう書く気が失せたからこれで終る。要するに「現代評論増刊」を概略読んだら、十人十色、正に広告の作者名蘭を見る如し。李仲揆教授の「生命の研究」
胡適教授の「訳詩三首」、徐志摩先生の訳詩一首、西林氏の[圧迫]、陶孟和教授の2025年になって全体を発表するという、我々の玄孫の時代に全部を拝読できる大著作の一部やら…があり、めくって行くとどうしたわけか、私の目にはいるものは灰色になってき、放り出してしまった。
 今の小学生は七色盤で遊んでいる。七種の色を円盤に塗り、止まっている時はきれいだが、回転すると灰色になる。本来は白だろうが、上手く塗らないと灰色になる。沢山の著名学者の大著の大雑誌は、奇妙な様相を呈しており、うまく回らない。もし回すと灰色になってしまう。これも正にその特色だろうが。
      192613
 
訳者雑感:
 北京の宝物や財産はこの書籍も含めて、義和団の変とか学生のデモ騒ぎ、軍閥の乱の際に、紫禁城を筆頭に、それぞれの邸宅からも「賊」によって持ち出された結果、どこかに散逸してしまった、と言われている。しかしその大部分は、紫禁城内で或る程度の権力と睨みをきかすことのできた有力者や宦官たちによって、密かにどこかへ持ち出されて、外国人に売り飛ばされたりした由。
ドイツ語の「社会主義関係の専門書」は「賊」に持ち出されたものか、或いは
持ち主がこのどさくさにまぎれて「どこかへ隠した」ものだろうか。何十台もの車(大八車か)を用意できるのは、それ相当の人間しかできまい。
   2010/10/21
 

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