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日夜浮かぶの翻訳雑感

魯迅の翻訳と訳者の雑感 大連、京都の随想など

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「パリ解放」を読んで

「パリ解放」を読んで
 A.Beevor, A.Cooper著、北代美和子訳 白水社版の同書を読んで考えた。
フランスと中国は、米英等のアングロサクソン系諸国とスラブ系のソ連の力で、
何とかドイツと日本に「惨勝」できた。
1.
 両国は戦争中に独・日に占領され、傀儡政権によって国民の生活が保たれ、
その一方でレジスタンスや抗日ゲリラなどが、米英の武器支援の下で続けられた。
 そして「パリ解放」の時、『パリを支配してきたコルティッツ将軍が、
ルクレール将軍との間で降伏文書に調印するため、パリ警視庁に移送されるとき、
群衆が押し寄せ、中には唾を吐きかける者もいた。他のドイツ軍兵士は両手を掲げて、
参謀本部から出てきたところで、おもに女性からなる群衆に襲われた。
女たちは軍服を破き、眼鏡や時計をはぎとった』(同書72頁)
 北京の日本軍は8月15日の後、北京の群衆にどのように扱われたのだろうか?
我々は旧満州の日本軍兵士の多くが、ソ連軍により武装解除されシベリアに抑留された、
という事実は良く知っているが、北京や上海での日本軍がどうなったか余り知らない。
 勿論戦犯は逮捕され、処刑されたが、多くの「一般兵士」は国民党軍に徴用された。
また八路軍に徴用された兵士もいる。だが多くは日本に逃げて帰ったという。
 しかし一般市民が「降伏した日本軍兵士」の軍服を破き、物をはぎ取った等は、
余り伝わっていない。沢山の戦争孤児を扶養してくれたことは知っている。
 北京の群衆はフランスの群衆のように、ドイツ軍に蹂躙された仕返しをしようと、
しなかったとは思えない。ドイツへの協力を余儀なくされた女性たちの「恨み」は、
軍服を破り、唾を吐きかけることをせねば、気が済まなかったのであろう。
 日本に協力を余儀なくされていた北京の女性たちの「恨み」はパリより少なかった、
というのであろうか。日本軍は今韓国から問題にされている「従軍慰安婦」により、
北京の女性からパリの女性ほど「恨み」を買う事が少なかったのか。
2.
 『ドゴールは戦争中に共産主義の悪魔と取引をし、モスクワに行ってスターリンと
条約を結んだために、多くの潜在的追随者、とくにペタン元帥支持者の目には、
疑わしいままにとどまっていた』(306頁)だが、その後反共に転じた。
 蒋介石も初め、息子の経国をソ連に留学させるほどソ連との結びつきを強めていた。
国共合作は日本に対抗する為、やむをえずだったから、その後反共に転じた。
 ドゴールも蒋介石も将軍から大統領と総統になった軍人政治家だが、
1946年前後、フランスは共産勢力が強く、ドゴールは政権から下野した。
その後、ドゴールの復帰を望む声が大きくなり、共産党を追い落として新共和国を作った。
 一方の蒋介石は、米国などからの支援を受けていながら、内部腐敗などから自滅し、
共産軍に破れて、台湾に逃れ、暫くの間は、台湾を基地に捲土重来を期したが失敗した。
 ドゴールと蒋介石、二人とも立派な軍人であったから、将軍になり総統や大統領に
推されたのだろう。彼はどこで足を踏み外したのだろうか?
フランス人も中国人も、いずれも長い間知識階級が、共産主義を理想と掲げてきた。
だが、群衆の多くは個人主義であり、中央政府を信用しないし、政府の紙幣を信ぜず、
「金」の方を信じる点で、共通なものがある。
1946年の頃、両国とも共産党と反共の勢力がせめぎ合っていた。
その結果、フランスはドゴールという「清廉」なリーダーの下で反共の共和国を作り、
中国は毛沢東朱徳など「清廉」なリーダーの下で、軍隊が規律と力を高めてゆき、
蒋介石というその取り巻きたちも「清廉」でない政権を追い落とした。
 だが、中国人は「本性」として共産主義を好んでいるわけではなく、国民党への
アンチテーゼとして選んだに過ぎないので、今も共産党による一党支配が続くが、
名は体を表していない。いずれ名称が変わるだろう。
3.
 『ドゴールはトルーマン大統領に、ヨーロッパの未来の平和は、ドイツを農業のみに
制限された弱小国家の集合体に縮小し、その一方でフランスをヨーロッパの経済大国
として建設することによって保障されると語り、平和確立の問題は基本的には、
経済問題であるというトルーマンの見解を退けた』(270頁)
 このドゴールの考えは、2度(普仏戦争も含めば3度)もドイツ軍により、
国土国民を蹂躙されたフランスの強い願望だろう。
現実は東西対立で東側への前線基地としてドイツの(軍需を含む)産業が再建されたが。
 マッカーサーが日本に来て、憲法9条を作らせ、日本軍を徹底的に解体し、
二度と米国に戦争を仕掛けてくる恐れのないようにしたことと相通じるものがある。
 私個人としては、「戦争放棄」という意味では憲法9条は賛成である。
しかし、それがマッカーサー占領軍の「ドゴールがトルーマンに語った、
ドイツを農業のみに制限された弱小国の集合体に縮小し云々」と続く文脈と同じとすると、
フランスと米英諸国がドイツを分割し、それぞれがソ連とにらみ合いながら支配した、
という歴史の重みは大変なものがあると実感する。
 幸い日本は、米英中ソ連の4カ国によって分割支配されることを免れたが、
昨今の尖閣を巡っての香港のメディアなどから伝わってくる、中国人としての本音は、
「蒋介石の中国は日本に惨勝しただけで、日本をドイツのように分割支配せず、
賠償金も要求せず、旧満州と台湾などを回復しただけで、日本に対して戦勝国として、
何の(報復)もしていないのに、又、野田首相が観艦式に登場して、その格好は、
戦前の日本軍を思い起こさせる」というような論評が多い。
 しかし、中には良心派もいて、何亮亮氏のように、今の尖閣を巡る両国の行動で、
一番漁夫の利を得ているのはアメリカだ、と指摘する論者もいる。
彼の論点は、今の状態を続けていくことで、損失を蒙るのは中国であり日本である。
この緊張が続いて、日中が対立するのは「中東」を抱える米国にとって好ましくない、
というのは米国の建前だが、日中の対立が無くなって、米国のプレゼンスが不要となり、
沖縄の基地も大幅縮小されるとなると、米国は「面白くない」と感じるのだろう。
アメリカがモンロー主義に戻ることはもうないだろうか。
   2012/10/17 記
 
 
 
 

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