忍者ブログ

日夜浮かぶの翻訳雑感

魯迅の翻訳と訳者の雑感 大連、京都の随想など

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

コメント

現在、新しいコメントを受け付けない設定になっています。

奇文を共に賞せん

奇文を共に賞せん   周敬儕(サイ) <備考>
 大人(タイジン)諸子が「故宮古物」を命(勿論小市民の命ではない)、
と同じと考え、南に移すのを断乎として決定したのは、古物の価値が、
大変高いだけでなく、容易に持ち出せ、容易に換金できるからで、
これは諸兄が驚くに当たらない。冷嘲やかっかして諷刺するに値しない。
 こんな風に考えていた時、首都(南京)の新聞に「古物南遷」を称賛する
社説が載った:更に「武力で反対者を制止せよ」と建議し、
「流血も辞さず」、政府に対し「威信を保持せよ」「政策貫徹」!と要求。
このような高説、高論を埋もれ消えさせてはならぬと、面倒を厭わず、
書き写して諸兄に献ず:
 『…北平の各団体の古物南遷への反対意見は、北平の将来の繁栄を害す、
としているが、この種の私利私欲的思考は国家利益を蔑視しておる。
北平の各団体がかようなことを言うのは、その厚顔無恥にあきれるが、
彼らは只、北平の繁栄のためだけを考えており、数千年の古物が、
敵に掠奪されるという大変な危険にさらされていることを知らぬ、
視野狭小のためだ。
 政府の戦略上、暫時北平を放棄し、敵を深く引き入れ、まとめて殲滅すべし。
古物が敵に掠奪されたら、将来の北平の繁栄は何に拠って維持するか?
故に、遷移を先行させ、日本を打倒して、北平が泰山の如く安泰になってから、
運びもどすに如かず。
 北平各団体の私利私欲は憎むべく、恥じるべし。その遠望深慮の欠如は、
憐れむべし。遷移反対のもう一つの理由は、政府はまず土地を保全すべし、
というが、これは似て非なる議論だ。蓋し、一部の土地を放棄し、
敵に一時的な占領をさせるのは、以て敵を殲滅するためである。
その後に再度これを回復するのは古今内外、その例は多い。
1812年の役で、ロシア人はモスコーを放棄したのみならず、焼き尽くして、
ナポレオンを困らせ、欧州大戦時、ベルギー、セルビアは皆領土を放棄し、
敵の蹂躙にまかせ、士卒も強いドイツに撃破され、領土は占領されたが、
講和はせず、割譲条約も結ばず、敵はその土地をいかんともできなかった。
故宮古物を遷移しなければ、不幸にして北平が占領されたら、
古物は掠奪される。そうなったら中国はどの様にして回復できるか?
中国の文明の結晶が、敵の戦利品となったら、大変な屈辱で恥ずかしいことだ。
… 最後に政府に奉告する。古物遷移の政策は既に決定せられたる上は、
如何なる阻碍があろうとも、その貫徹を求むべきである。
もし見識・遠望の無い群愚の反対で、即中止などすれば、政府の威信は、
どうなるだろうか。故に、張学良を厳しく追及し、以て反対運動を、
武力で以て制止すべし。やむなき時は、流血も辞せず』  
    2月13日「申報」「自由談」
 
訳者雑感:本文は前文の魯迅の「戦略上」の<備考>として付されたもの。
引用文中に、ナポレオンのモスコー攻撃や、欧州大戦のベルギーなどの例を
示し、あくまで敵を深くに誘い込んでまとめて殲滅するとか、
領土を蹂躙されても、割譲条約など結ばず、講和しないのが良いと主張する。
今「パリ解放」という本を読んでいるが、ナチスドイツに占領されたフランスは、北
半分をドイツの占領下に置き、南にペタン将軍のヴィシー政府を置いた。
これはフランスの苦渋の選択だったろう。

パリと並ぶ古い都北京(北平)も日本に占領されて、傀儡政府ができた。
陥落前は張学良が支配していたのだが、多くの北平の団体は故宮の古物を、
持ち出すことに大反対で、その後ろ盾が張学良だった。
 北平の支配者と市民、各団体にしてみれば、故宮の古物は彼らのもので、
それを持ち出そうとするのは、南京の国民党政府であるから、利害は対立。
「流血も辞せず」として多くの反対者を犠牲にして、大量の古物を運び出した。
この記事にも一理はあり、もしそのまま故宮に置いておいて日本軍の略奪に
あったら、どうなっていただろう。
日本人として、私は日本軍が故宮の宝物を掠奪するとは考えたくないが、
義和団の変の時は、主に欧州の軍隊が好き勝手に、掠奪したのは事実である。
円明園はその掠奪を隠滅する為に火をつけられて、跡形も無くなった。
 古来、ギリシャやエジプトの宝物は、欧州各国の侵略戦争時に持ち出されて
今は、本国には遺構しか残ってないという例が多い。
この記事の筆者の論調は、故宮の古物を運び出して、北京が安泰になった時に、
また戻せば良いと主張する。
今年、北京の古物が日本で展示されている。再来年は台北の古物も展示される。
台湾と大陸の繁栄は、この古物が、掠奪されずに「中華民族」の宝として、
精神的な支えになったのであろうか?
自国の宝物を侵略者に掠奪された国は、繁栄を取り戻すのは難しい。
それ故か、今イギリスやフランスに対して、そうした古物返還を求めている。
精神的な繁栄を取り戻す為に。
       2012/10/11訳
 

拍手[0回]

PR

コメント

お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

カレンダー

06 2024/07 08
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31

フリーエリア

最新CM

[09/21 佐々木淳]
[09/21 サンディ]
[09/20 佐々木淳]
[08/05 サンディ]
[07/21 岩田 茂雄]

最新TB

プロフィール

HN:
山善
性別:
非公開

バーコード

ブログ内検索

P R