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日夜浮かぶの翻訳雑感

魯迅の翻訳と訳者の雑感 大連、京都の随想など

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1930年 「硬訳」と「文学の階級性」

1.
 「新月」月刊集団は近頃好調らしい。噂通りのようで、私のような交際範囲の狭い男でも2人の若い友人が第267合併号を手にしていた。中身は「言論の自由」と小説が多かった。終わりの方に、梁実秋氏の「魯迅氏の『硬訳』を論ず」があり、「死訳に近い」と考えている由。そして「死訳の風潮を放置しては成らぬ」と私の3段の訳文を引用し、又「文芸と批評」の後記に私が書いた:「しかし、訳者の能力不足と中国文の欠点から、訳し終えて一読してみても、晦渋でとても難解なところが多い。複合句をばらしてしまっては、元の語気を失うし、私にはやはりこのような硬訳以外にいい方法は無い。唯一の希望は、読者が辛抱強く読み進めてくれることを願うのみ」、という文章に御丁寧に圏点をつけ、さらに「硬訳」には二重丸をつけ、「厳正」に「批評」を下して:『我々は辛抱強く読み進めたが、得る所は何もなかった。「硬訳」と「死訳」にどんな差があるというのか?』
 新月社の声明では、なんの組織もないというが、論文には無産階級式「組織」
を痛く憎んでいるようで、「集団」という言葉は、実は組織であるということで、
少なくとも政治論文については、この一冊中にもすべてが互いに「照応」して
いて:文芸についてもこの文章は、上述の同じ評論家の「文学に階級性ありや?」
という文章の余波である。その中で:「…だが大変不幸なことに、この種の本は
私に理解できるものは一冊もない。
…とても難しいと感じさせるのは、……
まったく天上の本よりずっと難しい。…現在中国人はまだだれも自分たちが分かる言葉で、我々に無産文学の理論とは一体いかなるものかを教えてくれる文章を書いた人はいない」文字の横に圏点が付けてあるのだが、印刷の手間を考え、ここでは付けなかった。要するに、梁氏は自分を全ての中国人を代表していると任じているようだが、これらの本は自分が分からぬから、全ての中国人も分からぬと考ええいて、中国ではそうしたものの命を絶つべきだとし、「この風潮を放置しておいてはならぬ」という。
 他の「天上の本」の訳著者の意見を私は代表できぬが、私個人の問題としても、事はそう簡単ではない。第一、梁氏が自ら「辛抱強く読んだ」と思っているそうだが、本当に辛抱強く読んだかどうか、できたかどうか、やはり疑わしい。辛抱強くといっても、実は綿のごとくふわふわと読んだのではないか。それは正しく新月社の特色なのではあるが。
第二、梁氏は自ら全中国人を代表しているそうだが、本当に全国の最優秀者かどうか?も問題だ。この問題は「文学に階級性があるか?」という文章から
解釈できる。Proletaryは音訳するまでもない。意訳で十分説明ができる。だが、
この評論家(梁氏)は却って言う:『辞典にはこの言葉の涵義は体裁がよくない、
「ウエブスター大辞典」には:
A  citizen of the lowest class who served the state not with property, but only having children. ……プロレタリアは国家でただ子供を産むことができるだけの階級!(少なくともローマ時代はそうだった)』この体裁をどうこう言うこともない。少しでも常識のある人なら、現在をローマ時代と同じとは考えないし、現在の無産者をすべてローマ人とは考えはしまい。それは丁度Chemieを「舎密学」(化学)と訳しても読者はエジプトの「錬金術」と混同はしないし、「梁」氏の文章もけっしてその語源まで考証して、「梁という一本の丸太橋」がペンを執っているなどと誤解はしないのと同じ。「辞典をひいて(ウエブスター大辞典を!)も、やはり「得る所は無い」と、
おっしゃるが、全ての中国人がそうだとは言えまい。
 
訳者雑感:
 本文は6部あり、扇風機だけの部屋であまり長く翻訳をすると「硬訳」どこ
ろか「死訳」になりかねないので、少しずつ雑感を交えて休憩することにした。
 魯迅は「新月社」の梁実秋氏からの攻撃に、猛然と反撃する。ウエブスター
大辞典のProletaryの英英辞典としての訳を引用することにより、ローマ時代
のプロレタリアとは「ただ子供を産むことで国にserveする」階級だという点
を強調する梁氏の「時代錯誤」を咎めるに、まさか「梁」という一本の丸太橋
或いは丸太棒が文章を書いているなどと、誰も考証はしないように、現在の
プロレタリアはローマ時代の「ただ子供を産むだけで国に奉仕している階級」
という定義とは違って来ていると反論している。
 手元の研究社の英和辞典には:
L. Proletarius furnishing the State with Children 無産階級、労働社会などとの訳が付いている。
資産を持つブルジョア
階級とその資産に勘定されていた奴隷との間の階級と言えようか。
 いずれにせよ、ウエブスターも研究社も、おおもとの英語辞典編者のプロレ
タリアという語源が「国家に子供を提供するだけの階級」という、支配者側の
作った「範疇」から説明しているのは、辞典が「支配者」「知識階級」中国で
いうところの「士大夫」「読書階級」の手になるものだということが分かる。
 中国人は人を罵るのに、相手の姓名や字を「考証」して分解、語呂合わせで
巧みに罵る。「梁」という姓も天井の梁だし、丸太橋がそもそもの意味だが、
まさか丸太橋が「高尚」な文章を物にするなどと誤解はしないよ、との皮肉。
     2011/07/10
 
 

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