魯迅の翻訳と訳者の雑感 大連、京都の随想など
大小の奇蹟
元旦に新聞「申報」の第3面に商務印書館の「今週の本」というのがあり、今回は「羅家倫氏が選んだ」ヒットラーの「我が闘争」(A. Hitler: My Battle)で、羅氏の序を摘録」して云う:
『ヒットラーのドイツでの台頭は、近代史の一大奇蹟。……ヒットラーの「我が闘争」は、党人の為に書かれ:正にそれ故にこそ、この奇蹟を知ろうとするには、すべからくこれから始めなければならない。この本は「今週の本」とするのにふさわしい』
しかし、訳本を見なくても、「ここから始める」だけで3つの小さな「奇蹟」を知ることができる。其の1、立派な国立中央編訳館が大変多忙な中、この本をまず翻訳したこと:其の2、これが「近代史の一大奇蹟」だそうだが、英語からの転訳であること:其の3、立派な国立中央大学の学長が「この奇蹟を知ろうとするなら、すべからくこれから始めなければならない」と言ったこと。
まことにとんでもない奇だ!
訳者雑感:出版社注;これは36年の1月に何干の名で「海燕」に発表した由。
魯迅はドイツ語からの色んな翻訳を手掛けていたから、ドイツ語の文献で、ヒットラーのドイツにおける政治活動をしていて、どういう人間かという輪郭を捉えていたことと思う。焚書など秦の始皇帝になぞらえた文章もあった。
そのヒットラーの「我が闘争」を今週の(お勧め)本として英語から翻訳したものを、国立中央編訳館が出し、その序にまた国立中央大学の学長が「この奇蹟を云々」と推薦している事。ヒットラーの政治活動が近代史上の一大奇蹟だ、というのは、彼を讃えているのだろう。それを自分の国に攻め入って来ている日本と同盟して第2次大戦を起こすことになるとは、36年の元旦の時点では、「立派な国立中央大学の学長」も何の見通しも予知も無いというのは、まさに奇怪千万である。
しかし1936年の時点ではまだ多くの人が世界大戦が勃発するとは感じていなかったのか。この年10月に魯迅は亡くなり、12月には西安事件で蒋介石が張学良に捕えられている。蒋介石が監禁され釈放されて始めて、抗日共同戦線が形成され、37年7月に日中戦争が始まった。
2014/11/23記
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