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日夜浮かぶの翻訳雑感

魯迅の翻訳と訳者の雑感 大連、京都の随想など

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3重なりの感旧

3重なりの感旧
  ――1933年に光緒末年を回想して   豊之余
 私は、過ぎ去って行った人たちに讃辞を贈りたい。
だがけっして(守旧者が昔を懐かしむ)「骸骨の未練」などではない。
 過ぎ去って行った人とは、光緒末年の所謂「新党」の人たちで、
民国初年には彼らは「老新党」と呼ばれた。
日清戦争に負け、彼らは自ら覚悟を決め「維新」しようとした。
3-40才の中年も「数学談義」を読み「化学原鑑」を読んだ:
英語や日本語を学ぼうと、ぎこちない舌を使い怪しげな発音で朗誦し、
それを周囲の人に恥じることもなかった。
目的は「洋書」を読む為、洋書を読む由縁は中国の「富強」を図る為。
今も古本屋の棚に偶に「富強叢書」が並んでいるが、それは現在の、
「表現字典」「基礎英語」の類と同じで、当時の機運に応じたものだ。
八股(科挙)出身の張之洞さえ繆(ビユウ)荃孫に「書目問答」を代作させた。
その中で、全力を尽くして各種の翻訳書を取りいれており、
そのころの維新の風潮の烈しさがよく伝わってくる。
 然し現在、これとは別の現象が生じて来た。一部の新青年の境遇は、
「老新党」とは全く違うし、八股の毒に少しも染まっていない。
学校も出ていて、国学の専門家でもないのに、篆書を学んだり、
(楽府から変化した)詞曲をつくり、「荘子」「文選」を読めと人に勧め、
封筒も自分で印刻した印板を持ち、新詩も(字句数をそろえて)、
見た目に四角い形に作っている。新詩を作るという嗜好を除けば、
光緒末年の雅人とまったく同じである。
違うのは辮髪が無いのと、時に洋服を着ることだけだ。
 近年よく「古い瓶に新酒は入れられない」というが、そうでもない。
古瓶に新酒を入れることもできるし、新瓶に古酒を入れることもできる。
信じられなければ、五加皮とブランディを入れ替えてみればわかる。
五加皮(白酒)はブランディの瓶にいれても五加皮だ。
この簡単な試験で、只単に「五更の調べ」と「攅十文」の格調(の詞)も、
新しい内容に入れ替える事ができるだけでなく、新式の青年の体内にも、
「桐城派の鬼子」や「選学の亡霊」の子分を潜ませられる事を証明している。
 「老新党」の見識は浅陋だったが、目的が明確で:富強を図ること。
それゆえ彼らの意志は堅固切実で:外国語を学ぶのも怪しげだが目的は:
富強の術を求めること。だから真面目で熱心だった。
排満論が広まるにつれ、多くの人が革命党になったが、それも中国富強の為に、
まずは排満から始めなければと考えたからだった。
 排満は成功し、五四運動もとうに過去のものとなった。
そこで篆書、詞、「荘子」「文選」古式封筒、四角い形の新詩、
そして今また新しい企図が出てきて、「古雅」を世の中に広めようとしている。
もしこれが実現したら「生存競争」に新しい例が添えられることになろう。
     10月1日
 
訳者雑感:
10月になると、魯迅は決まって清末の「新党」の先人のことを思い、
彼らのために何か書かねばと、旧事に感じるものがあるようだ。
彼が今日あるのは、清末の「新党」の人々の御蔭である。
新党たちの「富強」を図るための血の出るような努力と犠牲の結果、
洋書を学んで国を強くしようとする運動が起こった。
 科挙受験の為に「古典」(儒教主軸の伝統文学)を勉強してきた魯迅は、
祖父の贈賄嫌疑での入獄・父の病死で家は没落し、科挙の勉強を諦め、
1898年戊戌変法の年、18才で南京の江南水師学堂に給費で入った。
翌年、陸師学堂敷設の鉄路学堂に移り、1902年国費で日本に留学した。
科挙を諦め、西洋の学問をしに行くことは、魂を売り渡すようなもの、
というのが当時の世間の目であった。
 魯迅のそうした青春時の洋書勉強時代も、相変わらず科挙は続けられ、
1905年にやっと廃止された。儒教主軸の国学では、西洋に立ち向って、
国の富強を図ることはできないことが、ようやく認められたのだった。
しかしそれも30年ほどたつと、再び「古雅」を世に広めようとする動きが
出て来た。
「荘子」「文選」を読んで、古い伝統の雅を天下に広めることが、
もしも実現したなら、それは「進化論」の「生存競争」の判例のなかで、
古雅なものが新しいものに取って替るという判例を作ることになる。
 
中国は孔子以来、復古的な考えが強く、範を遠い昔に求めてきた。
満州族の王朝を倒して、維新を行おうとした「光緒末年の先人」たちが、
過ぎて行ってからいくばくもせぬうちに、もう復古の動きが出て来た。
これが1933年、3の重なった年の感慨だった。
      2012/08/06訳
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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