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日夜浮かぶの翻訳雑感

魯迅の翻訳と訳者の雑感 大連、京都の随想など

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感旧の後(上)

感旧の後(上)   豊之余
 うっかり感旧したばかりに、(第3種人の)施蟄存氏の「荘子と文選」を、
引きださせてしまった。彼はあれは彼のことを指していると考えており、
しかし又その一方で、彼のことを指してないことを希望している。
 私は今少し述べたい:
「感旧」は施氏を指しているのではない。だが施氏を含んでも構わない。
 もっぱら特定の個人について書くなら、現代風な書き方なら、
まず相手の貫籍、出身、容貌から、故郷の名産品などについて、
また親父がどんな店を開いているかに至るまで調べねばならず、
その上で当人ということをほのめかすように書いてこそ書式に会う。
私の文章には少しもそうしたことをほのめかしてない。
あの中では、一群の遺少(古雅を好む若者)の気風を指摘しているが、
誰と誰だとは特定していない。だが指摘したのが一群であるからして、
その中に入るのも当然大勢いる。
たとえ総体としてでなくても、そのなかの一肢一節であり、
永遠にその一群に属していないとしても、時にはそれに属している。
今、施氏自ら、青年に「荘子」と「文選」を読むように勧め、
それを「文学修養の一助」にというのは、私の指摘と関係してくるが、
私の文が彼の為に書かれたと思うのは誠に「神経過敏」であり、
私にはまったくその意は無い。
 だがこれは施氏が私の文章の出る前に書いたことで、
今や却ってこの「関係」もあまり直接的なものではなくなった。
私の指摘したのは、より頑固な遺少たちで、標的はもっと高かった。
 今、施氏自身の釈明を読み、1)彼の置かれている状況を初めて知り、
出版社の返答用紙の枠が小さすぎたのが原因で、「もう少し大きければ」
彼は「もう何冊か推薦したい」と考えていたこと。
2)彼の経歴を知り、「国文の教員から雑誌の編集者」となり、
「青年の文章がとても稚拙で語彙も少ない」と感じたから、
この2冊の古典を推薦し、彼らに語法を学び、語彙を増やしてもらい、
「今ではもう多くの字が使われなくなってしまった」が、
それでもそこから探し求めてもらう他ない、と指摘している。
荘子が生きていたら、(伝説通り彼の)棺桶を開いたら息を吹き返し、
結婚願望の女性に対し「烈女伝」を読めと勧めるに違いない。
  もう少し別の話しをすると――
一)
施氏は私が瓶と酒を「文学修養」に比すのは間違いだというが、
私はそういう風には比していない。新青年が旧思想を持つことも構わぬし、
旧形式に新しいものを蔵するのも可と言ったのである。
私も「新文学」と「旧文学」の間に明確な境界が引けるとは思わないが、
脱皮はあり、なにがしか偏向もあるだろうから、
そして更に正しく「何かで分ける」ということもできないだろうから、
「第3種人」の立場もなくなると思う。
二)
施氏が篆字は個人的なことで、他人にそれを強制しない限り、
問題無いという。もっともの事のように思われる。
しかし高校生と投稿者たちは、それぞれ個人の文章はとても稚拙で、
語彙も大変少ないが、他人に同じようにせよとは強制していない。
施氏はどういうわけか、大いに感ずるところがあってかどうか、
「文学に志す青年」は「荘子」と「文選」を読むよう勧めたのか?
施氏は(北京大学の)試験官として、詞を以て士を採用することは、
良くないと思っているが、教員と編者をしている人が、
「荘子」と「文選」を青年に勧めるというのはどういうことなのか、
私には誠にその間にどのような分界があるのか理解できない。
三)
施氏は更に「魯迅氏」に触れ、彼が荘子の新しい道統を継承しており、
すべての文章は彼が「荘子」と「文選」を読んだことから出てきている、
と言う風に書かれているが、「私はこれも少し武断だと思う」。
彼の文章中に、誠に多くの字が「荘子」と「文選」にあるもので、
例えば「之乎者也」の類だが、これらの文字は他の本に無いとは限らぬ。
より露骨に言えば、この様な本から生きた語彙を増やそうとするのは、
まったくアホなことで、きっと施氏自身もそんなことはしないだろう。
        10月12日
 
{備考}: 「荘子」と「文選」   施蟄存
 
 先月「大晩報」の編者が、枠を印刷した葉書を送ってきて、
2項目について答えるようにと;
1)今読んでいる本 2)青年に紹介したい本。
第2項に「荘子」「文選」、脚注に「青年の文学修養の一助に」と記した。
 今日「自由談」に豊之余の「感旧」を見て、神経過敏になり、
豊氏の文章は私のことを書いているのだと思った。
 だが今、豊氏を難じようという気持ちは無く、
この機会にあれについて、自分の状況を説明しようと思うだけだ。
第一、ここ数年来私の生活は国文教師から雑誌編集に変わり、
青年の文章と接触する機会が大幅に増えた。
私はどうもこうした施年の文章がとても稚拙で語彙も少ない、
と感じていたので、「大晩報」の編者の寄せた狭い回答枠の中に、
この2冊を推薦した。
 この2冊は文章の書き方の参考になると思い、語彙も増える、
と思った。(中には多くの字がもう使われていないが)
だが私は無論青年がみな「荘子」「文選」の類の「古文」を書くのを、
希望しているのではない。
第2、私は只、文学を志す青年が、この2冊を読めるようになることを、
希望すると書くべきだった。
個々の文学者は、上代の文学の助けを借りるべきであると考えており、
「新文学」と「旧文学」の間を、何を以て分界するのか分からない。
私としては、文学上、「旧瓶に新酒を入れる」と「新瓶に旧酒を入れる」
という比喩を使うのは、正しくないと思う。
一人の人間の文学修養を酒に比すれば、この様に言えるだろう:
酒瓶の新旧は関係ないが、酒は必ず醸造しなければならない。
 文学青年に「荘子」と「文選」を勧める目的は、彼らに醸造してもらう為で、
「大晩報」の編者の枠が広かったら、もう何冊かを推薦しただろう。
今、魯迅氏を例に取りあげていうことは構わないと思う。
魯迅氏の様な新文学者は十分、新しい瓶とみなしてよいようだ。
だが彼の酒は?純粋なブランディだろうか?私は信じられない。
古典文学の修養を経ずして、彼の新文学は今のようにうまくは書けない。
従って敢えて言う:
魯迅氏のあの瓶には多くの五加皮と紹興老酒の成分があるのは免れない。
 豊之余氏は篆字、詞、自刻版の印板の封筒を使うのを、学校を出ていない、
或いは国学専門のことと思っているが、私はこれも些か武断だと思う。
このようなことは、只個人的なことで、篆字を書く人がそれで手紙を書かず、
填詞する人が官について詞で士を採用せず、自刻印板の封筒を使う人が、
他の人に専用の封筒を使えと強制しなければ構わないことで、
これも豊氏の口誅筆伐で、「鬼子」や「亡霊」とみなすべきではない。
 新文学者の中にも、木刻をたしなみ、版本を研究し、蔵書印の蒐集、
駢儷文で口語の手紙の序を書き、机上に骨董の置物を置く人もおり、
豊氏のおっしゃるような考えからすると、まさか彼らは、
『「今の雅」を以て、天地の間に立足せんとするか』とでもなるのだろうか。
 彼らには必ずしもそんな企図はないだろう。
最後に、豊氏のあの文章が私の為ではないことを希望する。
   10月8日「自由談」
訳者雑感;
 魯迅は「狂人日記」を口語文体で書いて、中国の新文学者一号となった。
それでも「狂人日記」の序文のところは、些か文語的ではあるが。
施氏の指摘するように、彼の瓶(文体)は新瓶だと言えるが、
中の酒はブランディではなく、中国古来の五加皮か紹興酒の成分が残っている、
というのは確かにその通りだろう。その成分はといえば古典に違いない。
今2-3頁の雑文を翻訳していても、その中に必ず複数の古典からの引用があり、
人民文学出版社の注がなければ読解困難な物が多いのも事実だ。
 魯迅はこういう古典の句を原典に当たりながら引用しているのもあろうが、
多くは、彼が幼い頃から暗誦した「科挙のための読書」での蓄積があるからだ。
彼は原典を見ずに書いているのもあるが、原典に当たって調べるという作業の前に、
確かあそこにこういう句があったと記憶の底から思いだせるのは、読書の結果だ。
だがそれを使えこなせたとして何になろう、というのが彼の口癖だが。
 
 ここで魯迅が批判しているのは、遺少(古雅を好む若者)の気風である。
それは、光緒末に何とか富国を果たし、外国から侮られぱなしの中国を、
強くしたいとの願望から、新しい西洋の学問を取り入れようとした「新党」の人々、
其の人たちに讃辞を捧げようとする彼からみると、全くの後退であり、
進化論の生存競争からすると、前進しようとしているのに、逆走なのである、
と、魯迅は批判している。
      2012/08/10訳
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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