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日夜浮かぶの翻訳雑感

魯迅の翻訳と訳者の雑感 大連、京都の随想など

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雨中嵐山

雨中嵐山
 8月13日、故郷で墓参を済ませ、京都に出かけた。
翌朝京都駅に着いたら、昨夜の大雨で土砂崩れのため、京阪間の鉄道は不通という。
大阪方面への旅客は思案に暮れている。復旧のめどは立っていない。
 幸い私の乗る山陰線(嵯峨線)は動いているので、嵐山に向かった。
小雨が降り続いているので、乗客は少ない。お盆休みだから通勤客もいない。
近年、京都駅から複線になったので、窓外の景色も少し変わって見えた。
 嵯峨嵐山駅で下車し、細い川の畔の道を桂川に向かう。
この桂川左岸の道を渡月橋の方面へゆっくり歩きながら、嵐山の黒々とした緑と、
そこに見え隠れする法輪寺の塔を眺めるのが、京都でいちばん好きな時間だ。
 琴聞橋址にしばらく佇んだ後、左岸を更に上がって、嵐山公園へ向かった。
目指すは周恩来が学生時代に雨の嵐山で作った詩碑だ。
以前数回来たことがあるが、人のいない雨の中を歩くのは初めてだ。
いろいろな訳があるが、雨中の嵐山での彼の心はどうだったのだろう。
90年前の桜のころの嵐山も、雨では人出はすくなかったろう。
彼は日本に来て2年ほど勉強したが、官費の大学に合格できず、私学で学んだ後、
神戸から船で故郷天津に帰る決心をし、その前に京の友人宅でしばらく過ごして、
雨の中を2度目の嵐山に遊んでこの詩を作ったという。
1919年4月5日というから清明節であり、唐詩の「清明時節雨紛紛」の一句、
「路上行人欲断魂」(道行く人は魂を奪われそうだ)の心境に近いものがあったかも知れぬ。
私も今回、雨の嵐山で感じたこと、及び以前京都に住んでいた頃に何回もここに来て、
桜の季節に道の尽きるところまで歩いたこと、右岸の大悲閣まで登った時、
そこから見下ろした桂川の泉のように湧きでる水が、巨石をめぐって流れる様は、
蔡子民氏などの訳とは、少し違うと思い、3番目に私訳を試みる。
 
 雨中嵐山――日本京都
     一九一九年四月五日
 雨中二次遊嵐山,
 両岸蒼松,夾着幾株桜。
 到尽処突見一山高,
 流出泉水緑如許,繞石照人。
 瀟瀟雨,霧濛濃;
 一線陽光穿雲出,愈見[女交]妍。
 人間的万象真理,愈求愈模糊;
 ――模糊中偶然見着一点光明,
 真愈覚[女交]妍。
(女交は一字で美しい意。日夜浮かぶ注)
 

 (訳)
 雨の中を二度嵐山に遊ぶ
 両岸の青き松に いく株かの桜まじる
 道の尽きるや 一きわ高き山見ゆ
 流れ出る泉は緑にはえ 石をめぐりて人を照らす
 雨もうもうとして霧ふかく
 日のひかり雲間よりさして いよいよなまめかし
 世のもろもろの真理は 求めるほどに模糊とするも
 ――模糊の中にたまさかに一点の 光明を見出せば
 真 (まこと) にいよいよなまめかし   
      (蔡子民氏・訳)
 
 雨の中、二度嵐山に遊ぶ。
 両岸の蒼松は、幾株かの桜をはさみ、その尽きる処に一山高く聳える。 流れくる泉水は、かくも緑で、石をめぐりて人影を映す。
 大雨で霧が濛々(もうもう)と立ちこめ、やがて雲の切れ間から一線の陽光がさしこむその景色は一段と美しい。
 人間社会のすべての事物の真理は、求めれば求めるほど曖昧模糊 (あいまいもこ) なもの。しかし、その曖昧さの中に偶然一点の光明を見つけたとき、真の美しさがあると思われる。
 (『嵐山あたりの史跡と伝説と古典文学を訪ねて』 室町書房より)
 
(日夜浮かぶの訳)
 雨の中、二度目の嵐山に遊ぶ
 両岸の蒼蒼とした松のなかに、何本もの桜の花がきれいだ。
 道が尽きると、突如、高い山が目の前に聳える。
 こんこんと流れ来る泉のような水は、かくも美しい緑に映え、
 川中の巨石を繞(めぐ)って、人を照らす。
 雨瀟瀟(しょうしょう)となり、霧立ちのぼる:
 雲間からもれ来る陽光は、見れば見るほど美しい。
 世の中のすべての真理は、求めんとするほど模糊となるが:
――模糊の中に、偶然一点の光明を見つけると、本当に美しいと感じる。
   (2012/08/20訳)
追記:
 この詩を書いた時の周恩来は「詩人」であった。
帰国後これを投稿した。
もし、彼が東京で官費の支給される大学に合格して、卒業証書を持って帰国したら、
同じ日本留学組の蒋介石や汪兆銘などのように、国民党政府のエリート官僚として、
まったく別の道を歩んだかもしれない。
 日本での勉学を断念して帰国する際に作ったこの詩が暗示するのは何か。
雲間からもれくる一筋の光明とは、その後、彼がフランスに渡り、共産党員になって、
その光明の源を探し求めることに繋がったのだろう。
2012/08/21記
 
 

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