忍者ブログ

日夜浮かぶの翻訳雑感

魯迅の翻訳と訳者の雑感 大連、京都の随想など

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

コメント

現在、新しいコメントを受け付けない設定になっています。

喫茶 

喫茶  豊之余
 某公司がまた大安売りというので、上等の茶葉を2両買った。
1両20銭(洋銀で)。急須にいれ、冷めぬように綿入れで包んで大事に扱い、
さて飲んだところ、味は普段の安い茶と変わらず、色も澄んでいない。
 私は間違ったと悟った。良い茶を飲むには、蓋つき茶碗でなくちゃいけない。
それで茶をいれたら、果たして色も澄み、味も甘くて微香がたちこめ、
苦みも無く確かに良い茶だった。
但しこれは静かに座って、無為な時に飲むべきで、「喫教」を書きながら、
手にとって飲んだりしては、せっかくの良い味も知らぬ間に通り過ぎてしまい、
安ものの茶と同じみたいになった。
 うまい茶を飲む。うまい茶を飲めるというのは、「清福」である。
だがこの「清福」を享受するには、ゆったりした時間がなければならないし、
特別な感覚を磨くことが大切だ。
この極めてつまらぬ経験から、肉体労働者が喉の渇いて裂けそうな時に、
龍井の芽茶、珠蘭の香りの茶を与えても、只の白湯となんら違いはないと思う。
所謂「秋の思い」も実はこれと同じで、詩人墨客が「悲しいかな、秋の気は」、
と感じるのも、風雨や晴陰もすべてある種の刺激で、一面では「清福」だが、
老いた農夫は、例年その頃は稲刈りの季節だと知るだけである。
 それゆえ、この繊細で鋭敏な感覚は、無論粗野な人たちのものではなく、
上等人の印だと考える人がいる。
しかしまさにこの印こそが倒産の予告だと、私は心配している。
我々には痛覚がある。それで苦しむのだが、自衛もできる。
もし痛覚が無いと、背中を尖刀で突かれても、知覚がなく、血が尽き倒れるまで、
なぜ地に倒れたか分からない。
だがこの痛覚が繊細鋭敏になると、服の上からでも小さな刺でも感じるだけでなく、
服の縫い目、結び目、布毛も感じ、「無縫の天衣」をまとわないと、
終日何かに刺されているようで、生きてゆけないことになる。
しかしその振りをしているのは、無論この例ではない。
 感覚の繊細鋭敏は、鈍感に比べればとうぜん進歩といえるが、
それはもちろん生命の進化の助けになる限りという条件がつく。
もしそれが互いに関係がなく、障碍にさえなるようであれば、
それは進化の段階における病態で、暫くすれば行き詰まるだろう。
清福を享受し、秋の心を抱く雅人と、破衣粗食の粗野な人を比べてみれば、
畢竟、いずれが生き残れるか分かる。茶を飲み、秋天を望みつつ、考えた:
うまい茶も知らず、秋思もないのも、却っていいじゃないか、と。
9月30日
訳者雑感:
喫茶店というのはいつごろから始まったのだろう。
最近は欧米系のチェーン店との競争で、従来からの古い店がずいぶん減った。
マスターが隠退するとママが継ぐが、ママが倒れると閉店となるようだ。
本文の現代は「喝茶」で、これは華北地方で使い、華中・華南は「喫茶」、
広東では「飲茶」というと辞書にある。
日本は宋代に禅宗の和尚が持ち込んだから「喫茶」というのだろう。
それまでは、何を飲んでいたのだろう?
ただの水か沸かした白湯。これさえあれば生きては行ける。
鋭敏繊細な感覚は進歩といえるが、上等な茶が飲めないと、生活に潤いが無く、
生きていてもつまらないと感じるほどだとなると問題である。
 茶で命を落とした人もいる。
茶の交易で財を成した人もたくさんいる。
茶の税金を巡って英本国から独立を果たした国もある。
その茶の輸入代金の支払いに困って、代わりにアヘンを売りつけた英国と、
戦争を始めて負けた国もある。
繊細鋭敏な感覚を身につけず、白湯のままで暮らしていたら、
米国の独立や清朝の滅亡もだいぶ後のことになっていたかも知れない。
茶があったから、世界史の進行が加速されたと言えようか。
     2012/08/01訳
 
 
 
 

拍手[0回]

PR

コメント

お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

カレンダー

06 2024/07 08
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31

フリーエリア

最新CM

[09/21 佐々木淳]
[09/21 サンディ]
[09/20 佐々木淳]
[08/05 サンディ]
[07/21 岩田 茂雄]

最新TB

プロフィール

HN:
山善
性別:
非公開

バーコード

ブログ内検索

P R