魯迅の翻訳と訳者の雑感 大連、京都の随想など
後記―2
<左翼文化運動の台頭>
水手
左翼文化運動について、各方面の厳しい弾圧を受け、
内部分裂しつつも、最近また徐々に台頭し始めたようだ。
上海で左翼文化運動は、共産党の「同行者と提携」
という路線の下、確かに以前より少し活発になった。
雑誌では、先頭集団の老舗雑誌すら、左傾化しだした。
胡愈之主編の「東方雑誌」は、中国で最も歴史が古く、
穏健な雑誌だったが、王雲五老板の意見は、
胡愈之も近頃とても左傾したから、愈之の校正後、
もう一度彼が見なければならなくなった由。
但、王老板の大ナタの後でも、
「東方雑誌」は依然左傾の嫌いが大きい。
そこで、胡は解任され、李某が引き継いだ。
又、「申報」の「自由談」は礼拝六派の周某主編の時は、
とても陳腐だったが、今や「左聯」の手中にある。
魯迅と沈雁冰は今、すでに「自由談」の二本柱だ。
「東方雑誌」は商務印書館に属し、
「自由談」は「申報」に属し、商務印書館も、
「申報」も元来守旧文化の2つの砦だが、
この2つの砦は今、動揺しだした。
2社以外のところも推して知るべし。
この外、更にいくつかの中堅の新しい出版社も完全に
左翼作家の手中にあり、
郭沫若・高語罕・丁暁先と沈雁冰は各自が出版社をつかみ、
その大黒柱となっており、彼らは皆有名な赤色人物で、
出版社の老板は、今や彼らに頼って稼いでいる。…
3週間後、魯迅と沈雁冰が「自由談」の大黒柱になった
と指摘している。
(3月24日2巻28号)
<黎烈文はまだ文総に加入していない>
「申報・自由談」の編者・黎烈文はフランス留学生である。
これまでの経歴はよくわからぬ新進作家だ。
「自由談」を引き継いだ後、
「自由談」の論調が一変した。
執筆者は星社の「礼拝六」の旧式文人から
左翼プロレタリア作家に代わった。
現「自由談」の大黒柱は魯迅と沈雁冰の両氏で、
魯迅は「自由談」への、
投稿が最も多く、署名は「何家干」だ。
魯迅と沈雁冰以外の作品も8-9割、左翼作家の物で、
施蟄存・曹聚仁・李輝英の輩だ。
一般人は「自由談」の作者はみな中国左翼文化総同盟>
(文総と称す)、のメンバーだから、黎氏もそうかと思うが、
彼は否定し、未加入という。
上述の諸士とは只友好関係にあるという。 {逸}
1ヶ月後、この両人の「雄図」が出た。
(5月6日3巻12号)――
魯迅と沈雁冰の雄図
魯迅と沈雁冰等が「申報・自由談」を地盤に、
怪しい論調で大衆を吸引し、満足ゆく収穫を得た。
魯(?)沈の初志は、ある目的への試みで、
彼らの文化運動復興を企てるもので、
既にその団体創設の時期にある由。
この運動に参加するのは、彼ら2人以外に
郁達夫・鄭振鐸等で、意見交換の結果、
中国で最も早い文化運動の語絲社・創造社および、
文学研究会を中心にしていたが、
消散した後、語絲・創造の人はそれぞれ分散し、
ただ文学研究会の人は大部分まだまとまっていて、
――王統照・葉紹鈞・徐雉の類だ。
沈雁冰・鄭振鐸はこれまで文学研究派のリーダー役で、
この路線に沿うことを決定した。
最近、田漢も仲間とともに帰属を願い、きっと組織は結成され、
それは赤い5月中に実現されるだろう。 {農}
こうした記載は、編者の黎烈文には何の害もないが、
他のタブロイド紙の、「微言」には、「文壇行進曲」として
次の記事が出た。――
『曹聚仁は黎烈文等の紹介で左聯に加入』 (7月15日9号)
この2種の雑誌の論点の違いは、私怨によるのは
言わずと知れたこと。
ただ「微言」は更に巧妙で:たった15字で両派を陥れ、
きっと弾圧され、難に遭うようにしむけている。
5月初め「自由談」への弾圧は日ごとに烈しくなり、
私の投稿も次々発表不能となった。
但し、私の寸評は時に時局に対する憤慨で:
単に「自由談」を弾圧したのでなく、
この時の弾圧は凡そ官営でない雑誌が蒙った程度は
ほぼ同じだった。
しかしこの時最も適宜な文章は鴛鶯胡蝶的遊泳と飛舞であった。
しかし「自由談」がそうすることは難しかった。
遂に5月25日に、次の声明を出した。
編集室
最近、話しをすることすら難しくなり、筆を執るのは更に困難だ。
これはなにも:「禍福に門は無い。ただ人が自ら招くのだ」
と言っているのではない。実際「天下に道はある」から、
「庶人」はそれに相応じ、「論ずる勿れ」というわけだ。
編者が心から海内の文豪に呼びかけたいのは、
今後は風月を多く語り、不平は少なめにすれば、
作者も編者も、ともに安心できるということだ。
長短を論じ、(国家の)大事を妄りに論じるとなると、
屑かごに抛るに忍びず、新聞に載せることもかなわず、
編者は進退に窮し、配慮に欠けるのを免れない。
語に云う:時務を識るものは俊傑、と。
編者は敢えてこれを海内の文豪に告ぐ。
様々な苦衷はおありだろうが、伏して矜持を乞う!
{編者}
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