忍者ブログ

日夜浮かぶの翻訳雑感

魯迅の翻訳と訳者の雑感 大連、京都の随想など

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

コメント

現在、新しいコメントを受け付けない設定になっています。

中華民国の新「ドンキホーテ」たち

16世紀末、スペインの文人セルバンテスは大作「ドンキホーテ」を書いた。このキホーテ先生は剣豪小説にとりつかれ、古代の遊侠に倣おうと壊れた甲冑を着、痩せ馬に乗り、
従者一人を連れて漫遊し、妖怪を斬り、服従させ、暴虐者をやっつけて民を安んぜんとした。ところが、もうそんな古色蒼然たる時代は終わり、多くの笑い話を残したのみだった。
幾多の苦労をなめ、ついに大きなペテンにかかり、重傷を負って狼狽して帰り、家で死んだが、臨終の時、やっと自分がなんら大した侠客でもなく、凡人に過ぎぬと覚った。
 この古典は去年中国でも大変多く引用され、このあだ名を頂戴した人はどうもうれしくないようだった。確かにこの書物ボケはやはりスペインの書物ボケで、「中庸」を尊ぶ中国にはこれまで無かった類のものだ。スペイン人は恋を語るにも、毎日女の家の窓の下で歌う。カトリックを信じるとなると異端を焼き殺し、革命となると教会を破壊し、皇帝を蹴りだす。だが、我が中国の文人学者は、女の方から誘引されたと言うし、諸々の宗教の源は同じゆえ、寺社は保存すべしという。宣統帝は革命後も長年の間、宮殿で皇帝のままでいるのを許してきたではないか、と。
 先日の新聞に何名かの店員が剣豪小説にかぶれて、忽然(武術で有名な)武当山に行き、
修業したなどはキホーテに似ている。がその後どうなったか続報が無い。あまたの奇跡を起こしたとか、暫くして家に戻ったか知らぬ。「中庸」を旨とする例からすれば、多分家に戻ったのだろう。
 その後中国式「キホーテ」の登場は「青年援馬団」(馬という抗日将軍への支援団)だ。
しかし兵でもないのに戦場に行くと言いだし:政府は国際連盟に提訴しようとしているが、彼らは自ら動き出そうとし:政府はそれを許さぬが、どうしても行くという。中国にも鉄道ができたのだが、一歩一歩歩いて(東北まで)行くと:武器は大事だが、ただただ精神を重視する、と。これらすべては確かに「ドンキホーテ」と呼ぶに十分である。だがやはり中国の「ドンキホーテ」で本物は一人だが、彼らは団体:彼を送りだしたのは嘲笑で、
彼らを送ったのは歓呼:彼を迎えたのは「いぶかり」だが、彼らを迎えたのはこれも歓呼:
彼は深山に住んだが、彼らは(上海近郊の)真茹鎮に駐屯:彼は粉引き小屋の風車を戦ったが、彼らは常州で櫛簪の女と戯れ、美女に出会った。なんたる幸い。(「申報」12月号
「自由談」参照)その苦楽の差たるやかくの如し。嗚呼!
 確かに古今内外、小説はあまた有り、中には「棺を担いで」「指を切って」「秦庭に哭し」
「天に誓って」などの決死の物語は多い。今も目にし、耳にするは、棺を担ぎ、指を切り、
孫文陵に哭して出発を宣誓するなどから免れていない。五四運動のころ、胡適之博士が
文学革命を講じた時、「古典は用いぬ」ように、としたから今や行動でも用いぬ方がよいではないか。
 20世紀の戦争小説では少し古いので、レマルクの「西部戦線異状なし」レンの「戦争」
新しいところでは、セラフィモヴィッチの「鉄の流れ」やファジェーエフの「毀滅」があるが、それらにはこの様な「青年団」は出てこない。彼らは皆本当に戦ったのだ。
訳者雑感:
岩波映画が文化革命の中国の青年たちが団を組んで、全中国を歩いて回った映画を造った。
「夜明けの国」という題だった。巨大な赤旗を先頭に百名、二百名もの男女が、津々浦々の農村を回って、この革命を宣伝し、「文化大革命」を広めようとした。彼ら彼女らの目は
生き生きとしていた。現実に訳者が江西省南昌で3日ほど旅に同行してくれた小柄の女性は、すがすがしかった。
 鉄道もあったし、それに乗って辺境に下放された青年もたくさんいた。だが、映画に見るように、徒歩が基本であった。全国を歩くことで、自分の見聞も広まり、相手の農民たちも彼らから影響を受けたという。だが、中には無銭飲食だけするような輩も多くいた。
彼らは寺社を破壊し、財産を持ち出して、そうすることが「文化革命」だとした。
旧を破壊しなければ、新は立てられないというのがお題目。「破旧立新」だ。
 魯迅がここで痛罵しているのは青年団だが、彼らとは180度違う青年たちもいて、やはり徒歩で広大な祖国の大地を歩き続けた。司馬遷が若いころに祖国の各地を巡ったように。
それが統一への一歩となったと思う。
 文革が批判されて以降、「夜明けの国」で見たような瞳を見ることは稀になった。
   2011/10/15訳


 

拍手[0回]

PR

コメント

お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

カレンダー

06 2024/07 08
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31

フリーエリア

最新CM

[09/21 佐々木淳]
[09/21 サンディ]
[09/20 佐々木淳]
[08/05 サンディ]
[07/21 岩田 茂雄]

最新TB

プロフィール

HN:
山善
性別:
非公開

バーコード

ブログ内検索

P R