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日夜浮かぶの翻訳雑感

魯迅の翻訳と訳者の雑感 大連、京都の随想など

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病後の雑談4


4.病中にこんな本を読むのはやはり気がめいる。だが数名の聡明な士大夫が、血溜まりの中から閑適を探しだしていることを知ることができた。例えば「蜀碧」は大変悲惨な本だが、序文の後に楽斎氏の批語に曰く:「古穆で魏晋間の人の筆意あり」と。
 これは真に大いなる本領である!その死のような鎮静は、また私の悶もんとした気持ちを明るくしてくれた。(古穆とは死の様な鎮静の意か、世説新語の如くに:訳者)
 私は本を置き、目を閉じ横になってこの本領を学ぶ法を考え、これと「君子厨房を遠ざく」の法とはまったく別で、この時、君子自身自ら厨房に入った為だと考えた。
瞑想の結果、二つの太極拳の技をあみだした。一つは、世事に対し「光を浮かべ、影を掠める」法で、随時忘却し、あまり了然とさせず、関心があるようで、余り深入りしない:
二つ目は現実に対し「聡を蔽い、明を塞ぐ」ようにし、麻痺した如く冷静で、感動や触発されぬようにし、まず努力して後に自然とそうなるようにする。一つ目は外聞がよくないが、二つ目は病を去り、延年長寿の秘訣で、古の儒者も忌まなかった。これは全て大道である。もう一つ軽快な小径があり:双方でウソをつきあい、自ら欺き、人を欺く法だ。
 いくつかの事は、言い換えれば余り適切でないから、君子は俗人がそれを「見破る」のを嫌い憎む。だが「君子厨房を遠ざく」は自ら欺き、人を欺く法で:君子は牛の肉を食わずにはおられぬのに、慈悲心から、牛の死を見るのに怖れおののき、見るに忍びないから、そこを去り、ビーフステーキが焼き上がるのを待ち、その後おもむろに咀嚼するのだ。
ビーフステーキに対しては決して「怖れおののく」ことはなく、彼の慈悲とも衝突しないので、安心して味わう。天性の趣に満ち、歯間に楊枝を使い、腹をさする。「万物はみな我が為に備われり」とする。互いにウソをつくのは決して雅を傷つけることではない。蘇軾先生は黄州で、客に鬼(幽霊)の話しをするよう求め、客ができないというと彼曰く:「妄言でもいいから」との言葉が今に至るも風雅な逸話として伝わっている。
 小さなウソをつくのは無聊解消と悶もんとした気持ちを晴らすことができ:後になると真実を忘れ、ウソを信じるようになるのも心安らぐ醍醐味で、天性の趣が満ちてくる。
永楽帝が強硬に皇帝になろうとしたのを、一部の士大夫はとても良くないと思った。特に彼が建文帝の忠臣を惨殺したことだ。景清と一緒に殺された中に、鉄鉉がいた。景清は皮剥ぎにされたが、鉄鉉は油で揚げられた。彼の二人の娘を教坊送りとし、娼婦にした。これが更に士大夫を不愉快にさせた。しかし後に二人は元の裁判官に詩を献じ、永楽帝の知るところとなり、赦免され、士人に嫁した。
 これは真に「曲終わり、雅を奏ず」で重い負坦を解き、天皇はさすが聖明と感じさせ、善人は最後には救われたとされた。彼女は官妓になったが、究極的には詩の上手な才女で、彼女の父親はまた大忠臣となり、夫になった士人も当然肩身が狭くなかった。但し、これは「光を浮かべ、影を掠める」を必ず守り、これ以上詮索してはいけない。詮索すると、永楽帝の上諭(詔勅)に想い到り、残虐猥雑となり、張献忠が梓潼神(道教の神)を祀った時の「私たちは張姓で、貴方も張姓だ。私たちの先祖と貴方の先祖は同宗である。
この饗(お供え)を受けよ!」という名文は、それに比べると真に高雅で西洋の一流雑誌に十分載せることができる。そうなると永楽帝はけっして才を愛し、弱者を憐れむ名君ではなくなる。況や、当時の教坊はどんな所だったか。罪人の妻女はそこでただ嫖客を待つだけでなく、永楽の定めた法に依れば、彼女等を「転営」させている。これは各兵営に何日間か行かせるのだ。目的は彼女等に大勢の男の凌辱を受けさせるためで、そして「女郎屋の小僧」や「女郎の予備軍」を産ませるためだ。従って現在問題になっている「守節」は、当時実は「良民」のみに与えた特典だった。このような治世の下で、またこんな地獄で、詩を作ることで生まれ変わることができたであろうか?
 私は今回、杭世駿の「訂訛類編」(続補巻上)で、この話が明らかな欺騙だと知った。

『呉人の範昌期の書いた「老妓の巻に題す」で、詩に云う:教坊に落籍し、鉛華を洗い、一片の春心、落花に対す。旧曲を聴けば、空しく恨みあり。故園帰りゆくも家無し。雲鬟(びん)半ば垂れて、青鏡に臨めば、雨のような涙はしきりに弾み、絳紗を湿らす。安んぞ、江州の司馬(白楽天)ありて、尊前に琵琶(行)を賦さん。
昌期、字は鳴鳳:詩は張士澮の「国朝文纂」にあり。同時代の杜瓊、字は用嘉に亦次女の韻詩あり、「無題」と題すが、鉄氏の作でないのは明らかだ。次女の詩に云う所の「春来たりて、雨露ふかきこと海の如く、劉郎に嫁し得たは、阮郎に勝り」はその論、不倫というべく。宗正睦欅は(2代目建文帝)廃立事件を論じた中で、建文帝が西南に流亡した際の諸々の詩はみな好事家の偽作といい、そうであれば、鉄の娘の詩もそうだと知れる…』

 私は「国朝文纂」を見ていないし、鉄氏の次女の詩は杭世駿もまだ出所を捜し出せていないが、彼の話は信じられる……彼は口伝の風流をぶち壊してしまったが。一つには彼は真面目な考証学者で、二つには凡そ大変味気の無い結果となってしまった考証は、往々にして、表面的に聞こえが良く、面白いものより真に近いと思うからである。
 範昌期の詩を最初に鉄氏の長女の作としてなぐさめに自ら欺き、人を欺いたのは誰か?私は知らない。だが、「光を浮かべ、影を掠む」でいいかげんにあしらうということであれば、それもそれで良いのだが。杭世駿に見破られたが最後、もう一度見ると、確かに老妓を詠んだ作であることは明らかだが、第一句は現役の官妓の口吻らしくない。だが中国の一部の士大夫はどうも無から有を生ずるのを愛し、花を接ぎ、木を接いで、物語を造り出すのが好きで、彼らは泰平な世を頌すのみではなく、暗黒を粉飾する。鉄氏の二女のデタラメなことは小さな事だが、大は胡元(蒙古族)が殺掠し、満清(満族)が屠殺した際にも、一部の人達は、単単と何某の烈女が自ら命を絶ったのを称賛し、殉難婦人のことを壁に題した詩句を持ちあげ、こちらで艶伝を作り、あちらで韻に和した詩を作り、華麗な邸宅が廃墟と化したこと、人々が塗炭の苦しみをなめた大事件よりも、ずっと熱を込めて書いている。結局この詩文集を刻したのも、自分たちも全員その中に入れ、風雅もこれにて決まり、という次第だ。
 こんなことを書いている中、私の病もすでに良くなり、遺書を書く必要も無くなった。だが、この際私は親しい友人に託し、将来私が死んだ後、たとえ中国でまだ追悼などを行える状態だとしても、絶対私の追悼会や何とか記念出版をしないように頼む。というのも、それは生きている人の講演や挽聯の競演会になるに過ぎず、人を驚かす為に新たに造語して、対聯をひねりだすために、嘘八百を平気で並べたてる文豪がいるからである。結果はせいぜい、一冊の本を印刷するだけで、たとえ誰かが読むとしても、死んだ私と生きている諸君にとって何の益もない。作者にとっても実は何の益もなく、挽聯はうまくできたとしても、うまくできたというだけのことだ。
 現在の意見として、私はもしそうした紙墨や白布(挽聯用の)を買うくらいなら、数部の明人、清人、或いは現代人の野史や筆記本を印刷するに如かずと思う。但し、真面目に取り組み、工夫をこらし、句読点を間違えないようにしてもらいたい。12月11日

訳者雑感:
 罪人の妻女は教坊に入れられた。教坊というのは広辞苑にも「唐代以降、朝廷の音楽・
歌舞の教習をつかさどった機関」とあるが、その後これが芸者屋、遊里に変じて行く。
明の永楽のころには、魯迅の指摘する様に、各所の兵営に出向いて多数の兵士に凌辱させることにあったという。それを「転営」という由。先の大戦で日本兵の兵営を「転営」させられた日本・韓国朝鮮の婦女たちはおびただしい数にのぼったし、中国の婦人も狩りだされた。日本でもアメリカ軍が進駐してきて、おびただしい数の婦女がそうさせられた。
 日本や中国では、占領支配されたら、婦女がそうされるという運命にあることを暗黙のうちに認めて来たようだが、韓国は少し事情が異なるかもしれない。強制連行という事。
親が売ったというのでなく、軍隊に非人道的に拉致されたというのだろう。日本軍はその筋の業者経由だった、としているが、どうだろうか。
 魯迅は死後、もし追悼会などという(平和時にしかできないことが)ものが開けるような状態であっても、そんなものは文豪たちの「競演会」にすぎぬから、やらないでくれ。
その代わりにその金で「野史」を印刷してくれと頼んでいる。だが実際はそうならなかった。やはり盛大な記念会が何回も開催され、全集が何回もだされ、ついには元の墓から遺体を掘り出して、現在の魯迅公園にある「魯迅の墓」に改葬された。遺体の昇格である。
   2013/12/30記

 

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