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日夜浮かぶの翻訳雑感

魯迅の翻訳と訳者の雑感 大連、京都の随想など

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グレッグ・スミス辞任と重慶の薄書記解任

1.

 17日の日経にゴールドマンサックスの幹部社員グレッグ・スミスの
辞任関連ニュースで、ゴールドマンは顧客より自社の金もうけを優先していたと告発していた。

 こうした告発はしばしばあることだそうだが、実態がゴールドマン社の
自己勘定取引と投資に重点が置かれ、顧客への助言による本来のビジネスが軽んじられてきたことにあるようだ。顧客の利益のために存在する会社が、自己勘定取引で自社の利益増大の方が優先されるなら、顧客は見限って行くだろう。

 さて話を重慶の薄書記解任に転じる。

 中国の現在の中央集権体制は、秦の始皇帝が始めたといわれる郡県制にその起源がある。

それまでは徳川の幕藩体制のように、首都周辺と重要な地点は中央が押さえていて、それ以外の地方は昔からの領主がいたのを、郡県として封建貴族の支配を排除して中央から任命した役人が長となって3-4年ほどの任期で交代させて、腐敗を防ぐとともに、独立王国となって中央に反抗することを防止してきた


 その結果、その役人に任用されるための科挙制度が始まり、その試験に合格した者は、中央から各地方へ派遣され、その地で地方行政をうまく治め、その一方でそこで巨額の財産を蓄積して、中央の然るべき筋に上納し、時には官位を買って頭角を現して行った。

 内藤湖南が指摘しているように、郡県制の欠点は長として任命された役人が、自分の任期の間に、その地方をよく治める一方で、できる限りの手段を講じて、そこから巨額の富を自分のものにしたことである。その伝統は今日まで受け継がれている。

2.

卑近な例でいえば、1997年の香港返還時に、それまで香港を統治してきたイギリスが、香港に貯めこんだ膨大な富をそのまま中国に返還してしまうのは惜しいとして、とてつもない予算を組んで、空港や高速鉄道、橋梁をイギリス系の会社に発注し、それまで蓄えてきた香港政庁の財産の何割かをそれらの会社を通して、自国に持ち帰ったということが指摘されている。

これは英国の植民地での行為だが、現在の中国の各地方の政府の長は、農民から取りあげた土地や、もともとは海や湖沼だった土地を埋め立てて開発区にし、外資系企業に分譲して使用料を稼ぎ、居住地としてデヴェロッパーに高層マンションを建てさせ、そこから莫大な富を生み出す。その過程で大金が個人の手元に残る仕組みだ。

 薄書記は私が大連に赴任した時、大連市長として日仏米など外国企業を沢山誘致して実績を上げ、私の在任中に遼寧省長に出世し、私が帰任する頃には中央政府の商務大臣となっていた。その後重慶のトップとなり、そこでも実績をあげて中国のトップ九人の中に入りそうな勢いだった。それが今回の解任となったのだが、彼はこれまで所謂上述の如き自分の出世のために任地から富を吸い上げ、それを上納して官を買ったような形跡は無い。

いろいろ言われてはいるが、大連市、遼寧省での評判はさほど悪いものでは無かった。

 今回の解任に対し、一部の重慶市民からは、彼のおかけで重慶は犯罪が少なくなった、彼にお礼せねばならない。彼がいなくなると、また元通りになってしまうのが心配だと。

彼はどうして躓いたのか。彼は勿論大連市長として大連をきれいにしたし発展させた。

瀋陽の街も、彼が赴任してから街もきれいになり、ヤクザたちもなりをひそめつつあった。重慶でも全体的にはきれいになったし、以前の暗いイメージから大分清潔になった、という感じはする。

 だが彼は解任された。なぜだろう。右腕として遼寧省から呼び寄せた王公安局長が、汚職を暴かれて、米国領事館に駆け込んだことが発端だが、それを押さえられなかったということが、薄書記の力の限界を示している。権力闘争に敗れたのだ。

3.

 温首相が記者会見で名指しして、歴代の重慶のトップは重慶のために努力してきたが、現在の体制はこうした問題を起こしたことをしっかり反省せねばならない、と解任発表の前日に記者たちに語った。これは、各紙が伝えるように、中国内の権力闘争である。

その前提として、各地方のトップが共産党という名の「党に入っていて」中央から任命され、それまで各地で「実績」を上げてきた役人の出世争いが、こうした権力闘争を引き起こしているということを認識する必要がある。彼らは自己の権力拡大のために地方政治に励むのであって、その地方の人々の生活向上より、自分の出世を優先しているである。

  冒頭のスミス氏辞任に戻ると、中国の各地方のトップはゴールドマン社と同じで、住民(顧客)のための公務員(助言者)であるより、自己勘定取引や投資優先で、自分が稼ぐこと、自分の出世が優先されてきたことの弊害だと言える。

これはやはり各地方の人々の選挙で自分たちのトップを選ぶようにしない限り、この党員という名の役人たちの権力闘争を防止することはできないと思う。

    2012/03/17 日夜浮かぶ



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