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日夜浮かぶの翻訳雑感

魯迅の翻訳と訳者の雑感 大連、京都の随想など

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54 二重構造

中国の社会構造は、数十世紀を一瞬に圧縮したような状態で、松明から電灯、
一輪車から飛行機、投げ槍から機関銃、「法理論の妄談」禁止から法律擁護、
「食肉寝皮」(人肉を食いその皮の上で寝る)という人食い発想から人道主義、
屍を迎え、蛇を拝むことから美術教育で宗教を代替することまで、全てがいっしょくたになって、ひしめき合っている。
 こうしたもろもろの事物がごっちゃに一か所にひしめいているのは、あたかも吾輩が火を使い始める前の古人と共同で、レストランを始めたような状況で、
どんなにうまく協調しようと努力しても、料理は半熟のままで、ボーイたちも
気持ちはてんでんばらばらで、商売的にも成りたたず、倒産してしまう事は目に見えている。
 黄郛氏は「欧洲大戦の教訓と中国の将来」と題した文章の中で、この点に関して、大変明確な分析を行っている。
 「7年来朝野の有識者は政教の改良に腐心するに当たって、習俗の転移に注意を払って来なかった。古い悪習を取り除こうとせずに、新しい機運は生まれてこないことを認識してこなかった。物事はこのように無理やりやっても、何もうまく運ばない。外国人の我々を評すに、中国人は一種先天的保守性があり、時勢に迫られ、各種の制度改革が必要な時、かの所謂改革者は、決して旧制度を完全には廃せずに、旧制度の上に新制度を加える形をとる。前清の兵制の変遷史をみれば、我が言の無謬なのを知られる。最初は八旗に命じて各地に駐屯防御の兵として補充守備に当たらせたが、年月を経て、旗兵が腐敗して使い物にならなくなり、洪秀全(太平天国)が起こり、やむなく湘淮の両軍を募り、応急措置とし、それから旗兵と緑営(後の軍閥)が併存という二重構造ができた。日清戦争後、緑営の兵力も当てにはならぬので、新式軍隊を作り前二者と併せ三重兵制となった。今では旗兵は消滅したが、すがた形を変えた緑営は依然として存在し、やはり二重兵制だ。これから我が国人は徹底した改革を実行する能力が無いことは覆い隠せぬ事実だ。新暦で新年を祝いながら、旧暦でもまた祝う。民国の正朔を奉じながら、宣統の年号も存し、社会の各方面の、あらゆる所で二重制でないものは無い。今日の政局がかくも不安定で、ものごとの正邪の定めの無い所以は、一言でいえば、実に一種の「二重構造」が祟っているに過ぎないのだ」と。
 この他にも、信仰の自由を認めながら、孔子を特別に尊敬し、自ら「前朝の遺老」としながら、民国(政府)から俸給を取る。革新せねばと言いながら、却って復古を主張する。周囲を見渡すと、全く二三重から多重の事物ばかりで、
それぞれが相重なり、矛盾している。全ての人がこの矛盾の中で互いに怨みを抱きながら生きている。誰にとっても良いことは無い。
 進歩しようとするなら、安寧な世を作ろうとするなら、この二重構造を根元から抜き取らなければならない。世界は小さくないとはいえ、彷徨ばかりしている人種には、自分の立位置すら無くなってしまうのだから。
      2010/09/27
訳者雑感:
 二重構造というのは、金、元、清などの征服王朝が漢族を支配するために採ってきた歴史的なものがあると思う。数十万人という圧倒的少数の異民族が、広大な土地に広がる漢族を抑えるために不可欠なものであったに違いない。
 そのダブルスタンダードも、征服王朝の実力が圧倒的な時は機能したが、衰退するとともに、魯迅の引用する通り「正邪の定め無きもの」として祟ってしまうのである。この構造を根元から引っ繰り返したのは1949年の革命政府樹立であったが、つい最近まで「松明から電灯、一輪車から飛行機」の混在は続いたし、法律論を妄りに談ずることの禁止は、いまだにそのままであるようでもあり、法律擁護などは掛け声にすぎない、理不尽な人治国家の構造は不変である。
 日本は京都の天皇と鎌倉江戸の将軍の二重構造が、国土の狭さとか少数民族の支配とかという複雑な問題に直面することから免れたため、比較的成功裏に
運営されてきたとも言える。明治維新から第二次大戦終了まで、大仏次郎の言う「天皇の世紀」は将軍統治という二重構造を暫しの間はずしてみて、天皇親政という形を取ったのだが、軍部の暴走によって、それを止める力をなくし、
亡国寸前に至った。そして米国に押し付けられる形で、象徴天皇と責任内閣制の二重構造に戻ったという形かな。
 二重構造の方が地震国日本では、耐震性にすぐれているのかも知れない。

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