魯迅の翻訳と訳者の雑感 大連、京都の随想など
10)蓬仙兄の郷里に返るを送りて、感あり。
これは1916年作で、「敬業」第4号に掲載された。孤雁は寥(ひろき)天に入る、という句があり、これが林さんの本の題名とされた。これも、<訳詩>のみ。
相逢う萍水(みずくさ)も亦前世の縁か、
笈を負い、天津の門に来しも、あに偶然ならん。
虱(しらみ)をひねり、熱談し、四座を驚かす、
蟹を手に、酒を注いで、当年のことを語り、
危険なときも、平安な時も、平然と嘗胆し、
争って道義を担い、肩を休めんとはせず、
帰農して、功が満ちる日を待ち、
他年、預卜し(予測して占い)良い人の隣に家買う金を蓄えん。
東風は異客を催し、
南浦に別離の歌うたう。
目を転じれば、ひとは千里を行き、
消魂は一柯(斧)の夢、
星離れ、恨みを成し、
雲散じ、この愁い奈何せん。
欣喜の前塵は影となり、
縁(ゆかり)のことば多し。
同輩は競い疾走するに、
君独り、先鞭を着く。
事を転嫁する儂(われ)の拙さを憐れみ、
急流には、尓(なんじ)の賢に譲る。
群飛ぶ鴉は、夕暮れに樹木を恋し、
孤雁は寥(ひろき)天に入る。
惟交遊の旧(ふる)きことあればこそ、
岐(わかれ)に臨み、意(こころ)惆然(ちょうぜん)。
2013/05/26記
訳者雑感:
周恩来が京都に9日いた時に作った詩は、きっと彼を船に乗せて琵琶湖に下る時に見送ってくれた京都の友に贈ったことだろう。これは留別の詩。そして彼が天津の検察庁の看守所から、渡仏する李さんに贈った詩、そしてこれは「寥(ひろき)天」に飛び立つ孤雁に贈った詩。送別の詩。彼は中国伝統詩の精神を受け継ぎ、安西に使いする元二とか、黄鶴楼を去る孟浩然への詩とかの気持ちを表す「やさしさ」に満ちていると思う。
(完)
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