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日夜浮かぶの翻訳雑感

魯迅の翻訳と訳者の雑感 大連、京都の随想など

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石巻へ

 

1.

2年前の夏、塩釜から遊覧船に乗り松島を訪ねた。乗客は5人で、二人連れがえびせんをかざすと、たくさんのカモメが一斉に群がり飛んできて、二人は怖じ気づいていた。

それが無くなると、カモメたちは未練気に尚も追いかけて来たが、12分後に引き返して行った。これも大震災津波の影響だったろう。

 震災から2年半経って、あの仙石線の美しかった海岸は復旧しただろうか?

それを見に出かけた。塩釜から船着き場までの海岸沿いの「俳句」などが刻まれた碑は、2年前は倒れたままで、これを修復する前にやらねばならぬことが沢山あるのだから、しょうが無いと思いながら歩いた。今回はブルドーザーが石碑をきれいに撤去していまっていた。元の状態に戻るまでにはあと数年かかるだろうなと思った。

 遊覧船に乗ったら、今回はおおぜいの団体客で席は占められ、2階のデッキに上がった。

団体向けに売り子がえびせんをたくさん抱えて売っている。カモメは出帆前から、えびせんを袋から取り出した客の手をかすめながら飛び来たり、飛びさる。

 前回はテープのガイドだったが、今回は生の声で、右側の半島の地続き部分の住居は、津波の被害が大きくて、半数は誰も住んでいない状態だという。

島の松は大津波をもろに受けた所は、根がやられて、赤く枯れていた。

桂島は80世帯全員が山上の学校に避難して、1週間以上も支援なしに耐えて全員無事だったが、今は半数ほどに減ってしまったという。

 前回はテープの説明で、全ての小さな島にも名前がついているのに感心したが、今回の生ガイドでは、一つの島が3つに裂けたとの説明や、多くの松が枯れてしまい、カモメの巣に変じているのを見た。松島の二百幾つもの島は、過去の地震津波などの自然の力で、このように沢山の島に分かれたのだろうと思った。その中には蔵王連峰から吹き下ろす風も入っていて、その風の起こす浪で、蔵王の方向の壁はきれいな曲線を描いて抉られているのです、との説明にも感じいった。

 50分ほどで松島港に到着。港の正面の繁盛していた土産物店は、まだいくつかシャッターが下りて土嚢を積んだままだ。その数軒先からはみな元通り営業しているから、これは何か別に復旧できない事情があってのことだろう。復旧復興するのはやはり人なのだ。2.

 前回来た時は、橋がやられて渡れなかった雄島に向った。

東北大の艇庫を見ながら、赤いい欄干が修復された渡月橋を渡った。

沢山の仏像や石碑が津波の被害を受けたようにはみえないほど、しっかり残っていた。

芭蕉、曾良の句碑もはっきり読み取れる状態であった。

芭蕉は松島に来て、この島に上陸し雲居禅師の別室の跡などを尋ねた。

その「把不住」庵も(後に再建されたものだが)無事であった。

これもたび重なる自然災害で、倒れたり、廃墟になったりしたものが多いに違いないが、
後の人が彼を尊んで、再建したものが今も今回の津波に負けず残っている。

芭蕉は松島で「風雲の中に旅寝するこそ、あやしきまで妙なる心地はせらるれ」の後、予は口を閉じて眠らんとしていねられず、と記述しており、この時は句を残していないとされている。だが、この島の句碑には「朝よさをだれまつしまの片心」とある。

元禄2年の奥の細道に出かける前に作ったものだそうだ。

これ以外にも、「奥の枝折」に「島々や千々に砕けて夏の海」という句があり、雄島から眺めた松島湾の浪が千々に砕けているように観じたものか。

あるいは、小さな島々をそう観じたものか。

3.

 松島海岸駅前から代行バスで矢本に向った。
  


仙石線 津波から2年半後の野蒜駅 (137月撮影)

 

 以前、石巻に用があって、仙石線を何度か利用した。その時私が一番素晴らしい眺めだと思ったのは、東名駅辺りの海沿いになだらかな弧を描く線路であった。今、野蒜駅は上の写真のとおり、電柱は傾いたまま、鉄路は砂に埋もれたままである。

駅舎の右のコンビニは、板壁に大きな穴があいたまま、放置されている。鉄道が不通なのだから、誰もコンビニを利用する人はなく、店を修復する人もいない。

 それでも、元の線路に鉄板を敷いて、クレーンが修復作業を始めている。何年後かには、ハイブリッドのジーゼル車を石巻から仙台まで、東北線に合流して直結するという。

海岸線から少し内陸に入った丘陵地帯で、東京の大手ジェネコンが、東京郊外の新興住宅地開発と同じような雛壇式の宅地造成を行っていた。

仙台から30分の距離だから、こうした復旧が可能なのだろう。それに地場産業もある。

 2年後にもう一度来てみたら、阪神淡路大震災後の神戸のように復興していると思う。

カキの養殖も復活し、浜辺にはおびただしい数の稚貝用の貝殻が並んでいた。

前回来た時は広島産のカキを焼いていたが、今回は地元産だと言う、それまでは、大量の稚貝を、日本各地だけでなく、はるかフランスにまで送っていたそうだ。

今後この地区の稚貝が又フランスなどに届けられるようになる日も近いだろう。

4.

 矢本でバスから下車して、再び仙石線の鉄道で石巻に向った。雨が降り出して来た。

久しぶりの石巻は、駅周辺は大きな変化は感じなかったが、石森さんの漫画のアイドルたちのカラフルな像があちこちに建てられていた。彼を記念する建物も修復されていた。

 昼をどこかで食べようと思ったが、駅周辺は夜の居酒屋風な店はあるにはあるが、昼食用の店はない。それで昔よく歩いた立町商店街を歩いて、旧北上川の方に向った。

十年前もこの商店街はシャッターを閉めてしまった店が点在していて、日本各地の駅前商店街と同じ宿命をたどっていると感じた。

今回、10分ほど歩いて感じたことは、老舗の御菓子屋さんや伝統的な品を扱っている店、そして地場の銀行店舗は津波の被害から立ち直るべく改修され、復旧あるいは、前より現代化した店舗に変わっていた。その隣の幾つかの店は、シャッターが曲がったまま、板塀が崩れたまま、或いは青いシートで囲ったままの状態であった。これらの店は、松島海岸の港の正面の土産屋のように、夫々の事情があって、復旧に新たな資金と人手をかけることができないのだろう。

ラーメンやパスタを食べさせる店は、個人経営だったこともあってか、津波の被害が甚大で、再建できていない。

 時計は2時少し前だが、適当な食堂が見つからず、ひもじくなってきた。コンビニでお握りか、パン屋でパンでも買って食べようと探しながら歩いたが、牛肉屋とか羊羹店、饅頭などを売る店は少しあるのだが、コンビニもパン屋も無い。

とうとう旧北上川の岸辺まで来てしまった。

 自動販売機も見つからない。喉も乾いてきた。コンビニもパン屋も自動販売機もそれを利用する人がいて成り立つことが身にしみてわかった。

石巻駅から北上川まで、夜の飲み屋、すし屋、焼き肉屋等はあるが、旅行者が口にできるものを売る店がない。地元の人はそんな店を利用しないのだろう。

5.

 2年前東電の計画停電で、東京の都心の核となる地域を除いて、周辺の各区を時間ごとに区分けして、45時間の停電を実施したことがあった。千葉横浜の住民たちは大変難儀をさせられた。市役所や電車の駅の周辺は送電されるが、通り一つ隔てて電気が来ない。

その時の都知事の発言を突如思い出した。停電するくらいなら、電気を大量に消費する自販機をとめ、コンビニも営業時間を短縮して(24時間営業など止めて)一般家庭が停電で困ることの無いようにすべきだと提案した。

これは暴論だとして、自販機会社の配送などで働く人たちが失業するとか、コンビニが夜間営業停止すると、夜働く人達が不便になるとして反対して、沙汰やみとなった。

その時の都知事が、冷たい物を飲みたいなら、家で冷やしたものを飲めばいいし、弁当も家で作ればよいと言った。

 我々は現在あまりにも電気がもたらす「便利さ」に飼いならされてしまったようだ。

電気が来ないと、コンビニも自販機もファストフードの店も成り立たない。石巻やそれより北の津波の被害の甚大だった地区には、旅館やホテルなど宿泊施設が殆どやられてしまって、工事関係者を始め、ビジネス客や観光客は、ほとんど仙台市内のホテルに泊まるしかない。それで仙台市のビジネスホテルはいつも満室だそうだ。

 そうか、石巻に旅行者用の食堂やコンビニ、自販機が無いのは、ホテルが無いからか。

ヴォランティアや旅行者は仙台で仕入れた弁当と飲みものを持参して、被害地の復興に来る。去年来た人は、2食分或いは3食分の握り飯やパンを持って来たという。パサパサになった握り飯を食べて飢えをしのいだ、と。

 仙石線が一日も早く復旧して、旅行者が握り飯や飲み物を携帯せずに、普通のホテルに泊まれるようになる日が来ることを切望する。

      2013/07/22

 

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