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日夜浮かぶの翻訳雑感

魯迅の翻訳と訳者の雑感 大連、京都の随想など

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中国史学入門-1

中国史学入門
中国青年出版社 2007年9月 北京 第4版
顧頡剛の講史録 顧頡剛 口述 何啓君 整理 山口 善一 訳

訳者 前書き
 私は50年間、中国の歴史と向き合ってきた。小学生の頃に担任の先生が何かの都合で休講となり、加藤金松先生から、杜子春の物語を聞いた。洛陽の町のことやそこに住んでいた昔の中国人の生活や、考え方に興味をそそられた。それが私の出発点だと思う。その時聞いた話の迫力が、その後に読んだ芥川の小説より強烈に残っている。やはり、演劇とか生の人間の身振り表情を、まじかで見ながらの話が、長く頭に残る。これは紙芝居とか、幼児のころ母親から聞いた昔話も同じだろう。
 その後、大学の図書館などで、片端から中国関係の本を読んで楽しんだ。買った本は、大半は書棚に置いて、いつでも読めると思うと、案外読まない。図書館で借りた本は、期日までに返却しなければならない。平安時代に手書きの巻本を借りてきて、一心不乱に読んだもののほうが、いつまでも忘れないという趣旨のことを、誰かの日記で読んだ。
印象に残っているのは、たくさんあって、数え切れない。呉越春秋の物語、史記の強烈な個性を帯びた刺客などから、アヘン戦争の林則徐まで、日本史には登場しない類のスケールの違う人物が次から次へと登場する。そしてそれを誠に面白く表現してくれる歴史家たちが、これまた挙げ切れないほどいる。歴史家の作品なのだが、今のそこらの歴史作家のより段違いに面白い。
 只、通史として周から清、民国までの長い歴史を読むとき、いつも感じることがある。それは為政者とその取り巻きたちの腐敗、堕落によって、国がガタガタにされ、人災が天災を招き、党派の争いで国が二つ三つに分裂し、外敵が攻め込んで来、侵略され、人々の生活はメチャクチャにされる。この繰り返しが何回続けば終わるのだろうか。それは終わりのないドラマのようだ。循環史論という言葉で片付けられ、民百姓はお手上げで、諦めるよりほかはない。そんな過酷だが、時に退屈なほどの政治の世界を中心に書かれてきた通史にうんざりしていた私が、この本にめぐり合うことができた。この本の後半は既に日本語訳が出ていて、私も以前、読んだ記憶がある。しかし、それはもうだいぶ前のことですっかり忘れていた。
前半の部分は、筆記者が顧さんから聞いた部分が、紅衛兵に取り上げられていたのを、長い時間を経て返却されたものを、追補したものだという。
 一度、中国の通史を読んでうんざりしたことのある人たちに、是非ともこの本を読んでもらいたくなった。面白い読み物として、過去の通史に関する理解を、自分なりに整理しつつ、再認識するのに、とても楽しい本である。
 語り部たる顧老は大病を患い、手術後の養生のために北京西郊にある香山で療養していた。そこで聞き上手の筆記者と遭遇、この本が世に出ることとなった。この本の語り部は、通俗小説や京劇ファンが聞いてフムフムと納得し、うれしくなるような語り口で、まるで、演劇のストーリーを語る如くに、中国の歴史の局面を’ひとつずつ切り取って、我々に話してくれる。その時代時代に生きた人々の心臓の鼓動が、聞こえてくるようである。もちろん人々といっても、ほとんどは文字を読むことのできる、士大夫と都会に住む町人たちでしかないが。しかし彼等を突き動かした要因は、文字も読めない農民や工人たちの生産した農工品の出来高が、大きく影響していることを忘れてはならない。
 また、士大夫の統治のための儒教が、仏教や道教から、中国人に必要な部分をうまく取りこんで、町人たちに、講談や戯曲の形で、広まっていったのも大きい。ちなみに、最初に書いた杜子春の話も、顧老によれば、オリジナルはインドとの由。
 この本で指摘されているのだが、鉄とか塩とか工業製品を大量に生産していた古代の山東半島にあった国が、孔子などの思想家を大勢輩出しながら、政治的主導権を握ることができず、どちらかと言えば農業中心であった陝西、河南などの国が中国の政権を握ることができたのは、どうしてであろうか。農本主義の秦が、豊かな農作物を生産する四川を手に入れて、国力をつけた。1949年の政権も、農村で基盤を作り、都市を包囲せよとのスローガンを掲げて戦った。そしてどちらかと言えば都市型だった蒋介石政府を台湾に追い出した。
直近の30年こそ、世界の工場といわれているが、それまでは農業大国でイギリスは茶などの農産物を求めて侵略してきたのであった。どうして農業国が、鉄器でもって侵略してきた異民族に、一旦は支配されながらも、百年、二百年後には、またもとの農業国として統一国家に戻ることができたのであろうか。そんな疑問にこの本は、ヒントを与えてくれるだろう。
文字の獄とか、焚書坑儒とかすさまじい内部闘争が繰り返し人間社会の安寧を破壊してきた中国だが、1980年代から30年、比較的安定した社会が保てているのは、僥倖ともいえる。世界が小さくなり、中国だけが世界から孤立して、内部の路線闘争などにかまけていられなくなったという背景もある。今後30年従前のように、内部闘争など発生させず、比較的安定した社会が保たれれば、循環史などという言葉は死語になるであろう。小康状態と言うと日本語では、病が少し小康状態にあるという具合に使われるが、この国の最重要な理想はこの小康社会の維持建設である。これから何十年この小康社会を保持続けることができるか。それが最大の課題である。
     大連にて  2008年11月 山口 善一
目次 (全容を記すが、この訳書には一、二のみとする。三以下は、小倉芳彦氏らが研文出版から出版されている同名の本を参照下さい。)

序言、前書き。
一. 中国民族史概要
1. 2つの誤った観念を打破する
2. 中華民族の形成、成長及び発展
① 商
② 周、秦
③ 漢
④ 三国、両晋、南北朝
⑤ 隋、唐、五代
⑥ 宋、遼、金
⑦ 元
⑧ 明
⑨ 清
3. 各民族神話の中の祖先
① 盤古の天地開闢
② 三皇五帝の物語
③ 夏、商、周の伝説と歴史
二. 経書、子書、と戦国古書
1. 最初の中国文字
2. 経書漫談
① 詩経
② 尚書
③ 礼記
 ―<儀礼> <周礼> <礼記>
④ 春秋経
 ―<左伝> <公羊伝> <穀梁伝>
⑤ 孝経
⑥ 論語
⑦ 孟子
⑧  雅
⑨ 易経
⑩ 経書雑論
3. 諸子百家
① 墨子
② 楊子
③ 荘子
④ 老子
⑤ 韓非子
⑥ 法家
⑦ 管子
⑧ 陰陽家
⑨ 名家
⑩ 雑家
⑪ 諸子雑論
4. 経書、子書以外の戦国古書
① 竹書紀年
② 穆天子伝
③ 国語
④ 戦国策
⑤ 逸周書
⑥ 世本
⑦ 山海経
⑧ 楚辞
三. 中国史書
① 二十四史
② 史記
③ 漢書、後漢書
④ 史書雑談
四. 雑史
五. 経学、漢学
六. 清代古学整理、孝拠学
七. 史料学と考古学の結合
八. 中国古代社会の概略
九. 中国古代文字のやさしい説明
十. 中国宗教史略
十一. 中国哲学史略
十二. 中国歴代の都と北京小史
後記  修訂再版後記
校訂後記 三版校訂後記

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